第55話 秘めた決意

クロード邸宅まで行くと、途中で見かけた庭師にドアを開けてもらい、部屋へと入って行く。

そして、ゆっくりとベットの上におり、絨毯から降りる。

「ウィルさん、どうでしたか?いつも練習に付き合ってくれたけど、乗るのは初めてだったしょ?」

「素晴らしいです!こんな経験初めてです。空を飛ぶのがこんなに心地よいとは・・・」

ウィルは歓喜の声を出しながら絨毯から降り、ベットの側に立つ。

その言葉に優希はドヤ顔で微笑む。

「魔力が戻ったら、クロードさんを乗せて空中散歩する予定なんです」

絨毯を畳みながら優希は嬉しそうに話す。その様子をウィルも微笑みながら見つめる。

「喉乾いたな・・・」

優希はゆっくり立ち上がりながら、杖を掴むと、またカタンと杖が手から離れる。

「優希様・・・もしかして・・・」

少し青ざめた顔でウィルが声をかけると、優希はへへっと笑いながら頭を触る。

「今、俺の体に神殿の玉珠が入ってるんです」

「それは・・・」

「色々あって、それを狙ってる人がいるから、一旦、俺の体内に隠す事になったんです。でも、神聖な力が宿ってる玉珠の力が思ったより強くて、体がまだ痺れてるんです」

「医者を呼びましょう」

体の向きを変え、出て行こうとするウィルを優希は引き止める。

「ダメです。みんなには内緒にしててください」

「しかし・・・」

「これから、王家の秘宝というやつも体に入れなきゃいけないんです」

「そんな・・・そんな事をしたら、優希様の体が・・・」

「うん。多分、体に馴染むまで倒れると思う」

「そんな・・・それは、必ず優希様がやらないといけない事なんですか?」

「うん。俺しかできない事なんだ。でも、正直、不安はあるけど、これからの事を考えたら不安なのは俺だけじゃないんです。クロードさんもモーリスさんも、もしかしたら今、会議している王様や官僚達も不安に思っているはずです。だから、俺だけが弱音を吐いちゃダメなんです。これは俺にしか出来ない事で、俺の役目だから・・」

痺れが残る手をギュッと握り締め、優希は呟く。

「だから、内緒にしててください。たださえ不安なのに、俺の心配までかけさせたくないんです」

「ですが、倒れてしまえば、いずれバレる事です。それよりは、皆さんに話して対策を練ってから体内に入れた方がよろしいのでは?」

「時間がないかも知れないんです。だから、早めに体内に入れて体に馴染ませ、俺は魔力まで回復させないといけないんです」

「・・・何故、優希様ばかりこんな役目を・・・」

心配そうに優希を見つめるウィルに、優希は笑顔で大丈夫と伝える。

「俺はここでクロードさんや、モーリスさん達、そして、ウィルさん達と暮らしていきたいんです。だから、その為にはやらなくてはいけないんです。もちろん、死ぬつもりもないです。ここで、みんなと笑って暮らしたいんです」

優希のまっすぐな目をしばらく黙ったまま見つめていたウィルは、わかりましたと答え、その代わり万全な体制を整えさせていただきますと告げた。

優希はお願いしますと笑顔で返す。


2時間ほど仮眠を取っていた優希の元にクロードがやってくる。

会議の結果、今夜、厳重体制の中、クロード宅に運び体内へ入れるという結果になったと告げる。

それを聞いた優希は、近くに立っていたウィルに目配せをし、ウィルは静かに頷く。

「優希、大丈夫か?」

心配そうに優希を見つめるクロードに、優希は笑顔で答える。

「クロードさん、今日は早めに夕食を済ませましょう。まずは体力をつけないと!」

「そうだな。ウィル、頼めるか?」

「かしこまりました。精が付くものをご用意致します」

ウィルは軽くお辞儀をし、部屋を出る。

優希はクロードに悟られないように明るい声で話題を変える。

「そう言えば、クロードさん、俺、成功しました」

「何の話だ?」

「絨毯です!あ、でも、初めての相乗りはウィルさんですが、構わないですよね?」

「その話か。従者が興奮して話していた。初めてが私で無いのは残念だが、あの褒めっぷりは凄かったぞ。優希は本当に凄いな」

優希の頭を撫でながら、クロードは微笑む。

「色々落ち着いたら、空中デートしましょう」

「あぁ、そうしよう」

優希の満面の笑みに、頭を撫でていたクロードの手は頬に下り、優希の顔を少し上げる。そして、優しくキスをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る