第54話 空飛ぶ絨毯

その日、神殿の玉珠はその場で体内に吸収し、王に謁見して秘宝の話をした。

事態を把握した王は、すぐに官僚を集め会議室へと入っていった。

もちろんクロード、モーリスも会議室へ行った為、1人応接間に取り残された優希は痺れが残る手を見つめて、ため息をついた。

神殿で玉珠を体内に入れた際、その玉珠の神聖な力に体がビリビリと痛むのを感じた。

側でクロード達が心配そうに見つめていたので、平気なフリをしたがかなり疲労している。

「玉珠入れるだけでこんなに体力持ってかれるなら、秘宝とやらを入れたら恐らく倒れるかも知れないな・・・」

そんな不安が優希の頭の中によぎる。

たださえ、今回の件でクロードやモーリス達も優希の心配をしているのに、これ以上心配させたくない。

そんな感情が沸々と湧き上がってくる。


「すみません」

優希は側に控えていた使用人に声をかける。

「まだ会議は時間がかかると思うので、クロードさんの邸宅から誰か呼んでいただけませんか?一度、帰宅したいので・・・」

そう言って立ち上がると、立てかけていた杖を掴む。すると、手から杖が落ちる。

痺れが残っているせいか、うまく杖を掴めない。

ため息を吐きながら、優希はまた椅子に腰を下ろす。

心配して駆け寄る使用人が、かかんで杖を拾い、優希に持たせる。

「ありがとうございます。あの、やっぱりウィルさんを呼んでもらえますか?その時に、ウィルさんに部屋の絨毯と魔石を一つ持ってくる様にと伝えて下さい。それから、誰でもいいので、魔塔からも1人呼んでもらえますか?」

「かしこまりました」

お辞儀をしながら使用人は立ち上がり、部屋を出て行く。

しばらくしてから、ウィルが絨毯を抱え部屋に入ってくる。

その後ろから魔塔からの従者がやってくる。

優希は、ウィルにテーブルに絨毯を広げる様に伝え、従者に少し魔力を分けて欲しいと頼む。

「魔力を分けるとは、どうすれば良いのですか?」

「魔石に込めるんです」

そう言うと優希はウィルから魔石を受け取り、従者に渡す。

「この魔石を握って、この石に流れ込むイメージをするんです。普通は魔石には属性魔法をかけるんですが、そうではなく、体内にある魔力のみを注ぐ感じです」

「わかりました。やってみます」

従者は受け取った魔石を掌に包み、祈る様に額のそばに寄せ目を閉じる。

ふわふわとマントを揺らしながら握っていると、魔石が光だす。

少し経ってから光が消えると従者は目を開け、優希に魔石を渡す。

「あの、できてますか?」

「はい!完璧です」

魔石を見つめながら、優希は親指を立てる。

それから、今度は優希が祈る様に魔石を握り締め、目を閉じる。

するとまた魔石が光だし、その光が優希の手を伝って体を包む。

その不思議な光景にウィルも従者も目を大きく開く。

光が消え、優希はふぅっとため息をつくと、手のひらを広げてじっと見つめた。


「あ、あの、優希様、魔石はどこに?それに、今のは一体・・・」

従者の声に優希は顔をあげ、ニコッと笑う。

「体内に入れたんです」

「なっ!体内にですか?そんな事が可能でしょうか?」

「うーん・・・もしかしたら、他の人もできるかも知れないんですが、今、俺の体は吸収率抜群の体になってるので色々体内に入れる事ができるんです」

「それはまた・・・」

言葉を詰まらせ困惑している従者に、不思議でしょ?と笑ってみせる。

「もちろん、何でもかんでも入れるわけじゃないです。必要な物を必要なだけ入れます。今、俺の魔力は事情があって枯れてるんです。戻るのに少し時間がかかるので、他の人に分けてもらうしかないんです」

「そうですか・・・・」

「それより、分けてくれたお礼にこの絨毯の活用方法をお見せしますね。部屋の窓を開けてもらえますか?」

言われるがままに従者は窓を開ける。

「ウィルさん、一緒に乗ってください」

そう言って優希は絨毯に腰を下ろし、手を使って中央まで行くと、隣をトントンと叩く。

ウィルは黙って優希の言われた通り、絨毯に乗り込み優希の隣に座る。

「ウィルさん、どこか絨毯の端を掴んで下さい。ゆっくり行くので大丈夫だと思いますが、念の為です」

ウィルが絨毯を捕まえたのを確認すると、中央ポケットにある魔石に手をかざす。

絨毯はゆっくりと端を震わせ、ふわりと浮かび上がる。

「優希様、これは・・・」

呆然と優希達を見上げる従者が尋ねると、優希はニカっと笑って答える。

「魔法の絨毯です。これで邸宅まで帰ります。あっ、あと伝言お願いできますか?クロードさん達に先に帰ったと伝えてください。それから、俺・・・私は何度もここに来れないので、どーしても必要な時に呼び出すか、結果だけを教えて欲しいって伝えてください」

優希はそう伝えると、絨毯を操りながら窓の外へと出ていく。

その光景をただただ従者は立ち尽くし、見ていた。

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