第53話 ベタな展開

「はぁ・・・女神さん、ここ神聖な神殿なんですよね?」

呆れた口調で優希は呟く。

以前行った奥の参拝堂へ行くと、ドアが閉まった瞬間ガキンッと金属音を立てて、どこからともなく黒い矢が飛んでくる。

その物音に外で控えていたクロード達が入ってくるが、優希は大丈夫と伝え入り口で待機するように言う。

事前に置いてもらった椅子に腰掛け、像の足元に刺さった槍に手を伸ばすと、その矢は黒い煙となり消える。

そして、頭の中に声が響く。

(復讐の時を待っている・・・。)

何だろう、このベタな展開は・・・頭に響く声にため息を漏らしながら、気を取り直して祈りを捧げる。

「女神さん、どうなってますか?せめて展開を教えてください。それから、加護能力低すぎませんか?俺、死ぬところでしたよ」

神聖な祈りとは別に沸々と湧き上がる文句が出てくる。

しばらく沈黙が流れ、今日は聞こえないのかと諦めて、顔を上げると目の前の銅像が光を放ち、優希の体を包み、その体が宙に浮く。

光の中で心地良い風が吹き、頭の中に声が響く。

「あれの分身がいる。獣を作り、近い内に現れるだろう。私の力もそれに阻まれている。あれに王家の秘宝と神殿の玉珠を取られてはいけない。それを守り、ここに戻って来るのだ」

それから耳元で呟かれた言葉を最後に、声が途切れるとゆっくりと優希の体は、元の場所へと戻され、光は消える。

「優希!」

光が消えた瞬間、クロード達が駆け寄る。

少しだけ頭がぼーっとする頭と、体が痺れているのがわかる。

女神が最後に言った言葉を思い出し、痺れる手を見つめる。自然と湧き出た冷や汗が、優希の額を伝う。

「おい、大丈夫か!?」

「優希、しっかりしろ!」

モーリスとクロードの声が交互に聞こえる。

優希はニコッと笑い、ちょっと無理かもと呟き、そのまま気を失った。


「ベタ過ぎる・・・」

優希は自分の寝言で目を覚ます。

その声にベットの側にいたクロードが声をかける。

離れた所で大司祭と話をしていたモーリスも優希の元へと駆け寄ってきた。

「ここは・・・・?」

「神殿の控えだ。優希、大丈夫か?」

「あぁ・・・ごめんなさい。黒いのと、女神さんのと一気に来たから、頭がクラクラしちゃいました・・・」

「謝らなくていい。優希が無事ならいいんだ」

心配そうに見つめるクロードに優希は微笑みながら、頭を撫でてやる。

「それで、何があった?」

クロードの側に立っていたモーリスが優希に問う。

優希は大司祭様もここに呼んでとモーリスに頼むと、モーリスは言われるがまま離れていた大司祭を呼ぶ。


「実はですね・・・あの時倒した王妃様の分身がいるらしいんですよ」

「なっ・・・・!」

優希の言葉に他の三人が絶句する。

「最初に飛んできた黒い矢は、多分、その分身からで復讐の時を待っていると。それから女神さんは、その分身達に力を阻まれているみたいで、うまく俺に力を渡せないみたいです」

「分身達とはどういう事だ?」

クロードが眉を顰め優希に問う。

「何か、獣達を作ってると言ってました。はぁ・・生き残りがいて、復讐とかベタな展開過ぎません?それに獣って、多分、魔物とかです」

「厄介だな・・・」

モーリスは腕を組み、眉を顰める。すると今度は大司祭が優希に問う。

「優希様、神は他に何と・・・?」

「あ、それで、王家の秘宝と神殿の玉珠と守れと・・・」

優希の言葉に三人が言葉を詰ませる。

「とりあえず、それを俺に下さい」

「どういう事だ?」

一番にクロードが口を開き、その後をモーリスが言葉を挟む。

「秘宝は城で厳重に保管されている。だから、お前に守ってもらわなくても大丈夫だ」

「優希様、私共も玉珠は厳重に保管しているので安心して下さい」

モーリスの言葉に大司祭も口を挟む。

優希はわかってますと一言応えてから、言葉を繋げた。


「もしかしたら、その分身が以前より力が強いかも知れないんです。その証拠に女神様の力が阻まれ、この神殿も安全でなくなっている。だから、一旦俺の体内にそれを隠すんです」

「何を言っているんだ!?それでは、優希が危険な目に遭うという事じゃないか!」

クロードは声を荒げて優希に詰め寄る。

優希は嗜める様にクロードの頭を撫で、話を続けた。

「これしか方法がないみたいなんです。それから、魔石の力を借りて今より魔力を上げてここに来る様にと・・・その時に、その2つの力で女神様の力を取り戻したら、前みたいに女神様の加護が受けれるらしいです。その後は決戦に備えよと。今回ばかりは俺も色々覚悟を決めないといけないみたいです」

優希の言葉に三人は項垂れる。それを見た優希は声をあげる。

「大丈夫!今度は前みたいに負けません!作戦練って、今度こそ根絶やしにしてしまいましょう!」

明るく努める優希に対して、三人はまだ深刻に頭を悩ませる。

すると優希はニカっと笑って付け加えた。

「俺、女神さんにちゃんと文句言ってあるので大丈夫です」

「優希・・・」

「お前は・・・」

「バチが当りますぞ・・・」

あっけらかんとした優希の笑顔に三人はため息を溢した。

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