第52話 憂鬱

「シンプル過ぎる・・・・」

全身白の服に、白のマント、靴まで白い。

鏡に映る自分の姿にため息が溢れる。

今日は優希が帰還して初めての神殿訪問の日で、朝から使用人に手伝ってもらって衣装を着る。

治癒の力が戻るまでは正式な称号などは付けないはずだったのに、城からこんな格好で出れば目立つに決まっている。

たださえ、優希の名は勲章式の時点で多くの人に名が知れ渡った。

それはクロードの婚約者という名目とは別に、国を救った賢者的な存在として国民の間でも噂が立っていると、使用人から聞かされていた。

優希からしたら、ただクロードの力になりたかっただけで、名誉とか賢者とか考えていなかったのに、命をかけて闇魔法と戦い、悪女のボスを討伐して国を守り、名誉ある負傷をしたと噂が一人歩きしていた。

異世界あるあるか?と優希は思いながら、あまり目立つのは好きじゃ無いので、今身に纏っている衣装も疎ましく思う。


「優希、馬車が到着した。準備はいいか?」

クロードの声に振り返ると、優希はむぅっと顔を顰める。

「ど、どうかしたのか?」

「何で、クロードさんはカッコよくて、俺だけこのシンプルなザ!聖女!みたいな衣装なんですか?」

頬を膨らましながら、クロードの衣装をジロジロと見渡す。

中は黒をベースに白地にシルバーの刺繍が施されたベスト、片肩からは紺のマントがかけられている。

「す、すまない。今日はモーリスも連れ立っていくのだが、皇族の印である紋章が入ったベストとマントを着る様に言われているのだ。これで優希が皇族の保護下にいると知らしめる為らしい」

「保護下って・・・俺、あまり目立ちたく無いんですが・・・」

たださえこの衣装と噂で目立つはずなのに、サイドに皇族の名と、美男子2人に挟まれるとなると絶対に注目の的だ。

ぶつぶつと呟きながら、杖を握る優希にクロードが焦った表情で後をついていく。

実際、クロードは背も高く、光を浴びると鮮明に輝く長い赤髪、最近は髪を結っているので整った顔付き、その髪の間から除く銀色の瞳孔、どれをとってもイケメン要素しかない。

そのクロードに引けを取らないのがモーリスだ。

クロードと同じくらいの背丈に、ブラウンの短髪、グレーの瞳孔、整った顔付きはクロードと似ており、違うところと言えば、長年鍛え上げたガタイの良さだけだ。

クロードも引き締まった筋肉質ではあるが、騎士としても活躍していたモーリスには敵わない。


馬車の前まで来るとモーリスが振り向くが、その姿を見た途端、しかめっ面の優希の顔が更に険しくなる。

「おい、こいつの顔はなんだ?」

優希の表情に、怪訝そうにモーリスが問うと、優希はまたブツブツと呟く。

「クロードさんは銀の刺繍で、モーリスさんはグレーの刺繍ですか。不公平だ」

「おい、何の話だ?」

「いいえ、別に。はぁ、でも、これやっぱり変じゃ無いですか?」

「全然変じゃ無いぞ、優希。とても似合ってる」

慌ててクロードがフォローするも、優希は違うんですと即答する。

「こんなイケメン達に挟まれて、俺は全身白衣装で、これから三人で神殿に行く。わかりませんか?」

「だから、何の話だ?」

「優希、すまない。私も今のはわからないのだが?」

不思議そうな顔をする2人に優希はぼそっと小さく呟く。

「これじゃあ、まるで俺は2人のお嫁さんみたいじゃないか・・・」

その呟きが聞こえたのか、2人は黙り込む。

「俺1人で行ったらダメですか?」

その声に黙り込んだ2人がダメだと声を上げる。

「神殿とは言え、危険な場所だと優希もわかっているだろう?」

「俺達はお前を守る義務がある。だからこそ、こうして皇族衣装を着ているのだ」

「わかっています。でも、これは目立ちすぎませんか?」

「優希を守るためには、この方法が一番いいんだ」

「皇族の保護下と知らしめれば、下手に手出しはできなくなる。お前に手を出せば、国が相手になると言う意味になるからな」

2人の説得にため息を吐きながら、馬車のドアに付いた手すりを掴み、踏み台に足を乗せ、杖を使い馬車に乗り込もうとした途端、杖が滑り体が後ろに倒れ込む。

「優希!」

2人の重なる声が聞こえたと思ったら、大きな逞しい腕が伸びてきて優希の体を支える。

気がつくと双方から腕が伸びており、心配そうな顔で2人が覗き込んでいた。

「危なかった・・・2人ともありがとうございます。なんか・・・仲良くなるにつれて、息がぴったりになりましたね・・・あっ!俺、初めてモーリスさんに名前呼ばれた気がする・・・なんか感極まる物があるなぁ・・・」

一瞬安堵の表情を見せた優希だが、2人の行動や顔付きを見てニコリと微笑んだ。

「くだらない」

モーリスはクロードと共に優希の体を馬車へと戻すと、すぐに手を引っ込める。

クロードは黙ったまま、優希を支えながら馬車へと乗り込むと、その後にモーリスが乗り込み、馬車を走らせた。

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