第51話 それぞれの想い

「くそっ・・・」

モーリスは部屋に戻るなり、悪態を吐きながら長椅子に寝そべる。

「俺は一体何を口走ろうとしたんだ・・・」

腕で目を伏せながら、モヤモヤとする胸の服をもう一つの手で握る。

(違う・・・これは違う。たとえそうでも、これは捨てないといけない。)

そう思えば思うほど、胸が苦しくなる。

こんな気持ちになるのはいつからだろうか・・・邪魔な存在だと思っていたのに、俺の悪態付く演技に気づかれた時?王に子供の気持ちを考えろと怒鳴った時?

ずっと生意気な奴だと口にしていたのに、呆れながらもいつの間にか笑っている自分に気づいた時?今までの優希との交わした言葉や過ごした景色が、頭の中に浮かんでくる。

少なくてもあの時ははっきりと感じていた。あの戦いの中で、仇を取りたいと思う反面、あいつを守りたいと思った。

身体が消えていく瞬間、俺も側で抱きしめたいと思った。

(美久さん、俺達が三角関係だと思ったみたいです。)

優希の言葉が不意に思い出されると、ふっと笑みが溢れた。

馬鹿馬鹿しい。きっとこの国の為に戦ってくれたあいつへの誠意だ。

それに、クロードの想い人だ。それを守りたいと思うのは当然の事だ。

そうだ、あいつの言う家族と似た感情だ。これはあってはならない・・・。

そう言い聞かせながらもほんのり目頭が熱くなるのを感じる。

どうにもならない感情は捨ててしまえ。どうせ、俺には得られない物だ・・・



「はぁ・・・」

モーリスが悩んでいると同時刻、クロードもまた悩んでいた。

あれから笑顔で迎える優希に様子を見に来たが、すぐに戻らないといけないと伝え、部屋を出た。

その足で庭園のベンチへ腰かける。

モーリスが来ている事はウィルから聞いていたが、ドアをノックする前にモーリスの言葉で手が止まった。

最初は婚姻の話をしていたが、優希の言葉にクロードも気持ちを動かされ、最後のモーリスの言葉に予感から確信に変わる。

「モーリスはいつから・・・」

ため息にも似たつぶやきが出る。

優希は明るくて真っ直ぐで、嘘がない言葉を、欲しかった言葉を自然に口にする。

人の痛みをすぐに察して優しく寄り添ってくれる。

全身でぶつかってくれる。

優希が言うように、互いに孤独だった私達が優希に惚れるのも自然な事だと理解している。

あんな言葉を向けられたら心が動くのは当たり前だ。

だからと言って優希を諦めるつもりはない。優希も私に気持ちをくれている。

それはしっかりと伝わっている。

だが、もし出会ったのが私でなく、モーリスだったらどうだっただろう・・・そんな不安が押し寄せる。

たまたま孤独に暮らしていた優希に出会ったのが私だっただけ・・・それでも、それは神が与えた運命だと信じている。


あの日は前日に王と謁見して、いつもに増して強く当たられた事で気が滅入っていた。

一度懐かしみたくてあの森に行ったのがバレた時は謹慎を言われて、それから足が向かなかったが、あの日はどうしても行きたかった。

母との思い出が、家族との思い出が残るあの場所へ行きたかった。

それで、ウィルと口裏を合わせて邸宅を抜けて向かった。

そして優希と出会った・・・・。

優希と過ごす日々が私に安らぎを与え、力をくれた。

溢れ出た想いを優希は時間をかけて、受け入れてくれた。

やっと戻ってきたこの幸せを手放したくない。

だが、モーリスは後継者としての重圧と共に、優希への想いも自分の中に押さえつけているはずだ。

優希を愛するようになって気付いた。

どんなに押し込めても、不意に溢れ出す気持ちを溢してしまいたくなる。

想いが強ければ強い程、溢れ出す気持ちを止められない。

このまま栓を閉じて欲しいと思う反面、惹かれる気持ちが痛いくらいわかるからやるせない。

それに選ぶのは優希だ。

今は私に気持ちがあっても、モーリスが本気で向き合ったら、多少は優希の心も動くはずだ。

このまま気付かないフリをして成り行きに任せるしか無いのか・・・

答えが見つからないまま、また大きなため息を吐く・・


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