第49話 変わらない気持ち
「優希・・・」
部屋に戻り長い椅子に優希を下ろすと、黙ったままだったクロードが口を開く。
「クロードさん、座ってください」
クロードの手をそっと握り、隣に座らせる。
「クロードさんが言いたい事はわかります。でも、クロードさんも心のどこかで気付いてましたよね?全ての責任をモーリスさんに乗せる事に罪悪感があるとも、前に言ってました。俺が戻ってあの事件が片付いてから、モーリスさんに沢山の縁談が来て、いろんな令嬢と会ってると聞きました。もし、クロードさんが第一後継者だったら、今のモーリスさんの状況はクロードさんがしなければいけなかった事です。俺との事も余儀なく反対されたでしょう。冷遇を受けた代償と言えば、この幸せを罪悪感もなく受けていたはずが、クロードさんは優しいから・・・」
クロードの手を摩りながら優希は優しく話す。
クロードは申し訳なさそうに俯いたままだ。
「第二後継者として、これからモーリスさんを支えていくのであれば、他の方との婚姻も視野に入れなければなりません。考えたくは無いですが、万が一の為です」
「わかってはいるが・・・私は優希に正妃になって欲しいと思っている」
「はい。それをクロードさんが望むのであれば、俺は喜んでなります」
「・・・・私は他はいらない・・・」
優希は小さな声で呟くクロードの頬を両手で掴み、顔を上げさせる。
「クロードさん、なにも今すぐにどうとかでは無いんです。もしもの時に考えればいいんです。あくまでも視野に入れておく・・・それだけで良いんです。だから、それまでは俺だけを見ててください。これは、俺のわがままです」
優希の言葉にクロードは、優希の手に自分の手を重ね、真っ直ぐに優希を見つめる。
「優希・・・愛している。この先もずっと変わる事はないと誓う。だから、優希も忘れないでくれ。私は優希だけを見つめ、心から愛しているという事を・・・」
「俺も愛してます。もしもの時は2人でまた考えましょう。誰も不幸にならず、クロードさんが罪悪感に苛まれずに、幸せに笑える様に俺も力になります」
「私は、優希が側にいてくれれば、それだけで幸せだ」
「俺もです。今は2人の時間を大事にしましょう」
優希は微笑みながらクロードにキスをする。クロードもそうだなと答え、優希にキスをした。
「すみません。わざわざ足を運んで頂いて・・・」
目の前に座るモーリスと大司祭と魔塔の責任者、ジェナに優希は頭を下げる。
日を改めてと言っていたのに、翌日の朝には大司祭と魔塔から謁見の依頼が届き、モーリスからも催促が来た。
あいにくクロードは別件で席を外す事になるが、話は早い内がいいとなり、午後に邸宅に集まる事になった。
双方から話を聞いた上で、力が戻るまでは神殿には週2回祈りを捧げる為に通う事になり、普段は魔塔で訓練しながら魔法について研究する事になった。
「優希様、あのブレスに込めた魔法はどうやったのか教えていただけませんか?」
「あれはですね・・・」
そう言いながら、優希はゆっくりと席を立ち自分の机へと歩く。
そして、引き出しを開けガコンッと音を鳴らすと、カチリっと音が鳴る。
すると、右側にある引き出しの内側から小さな扉が開く。
「モーリス王子、すみませんがここから紙を取り出してくれますか?」
開いた扉を指さすと、モーリスは黙ったまま立ち上がり紙を引き抜く。
「これは・・・」
数枚を束ねたその紙には、魔法の呪文と魔石への組み合わせ方が書いてある。
その紙を他の2人に見せる様に伝えると、また椅子の方へ歩く。
「俺の考えた魔法陣です。何度も試して上手く行った方法を書いて、秘密の扉に隠してあったんです。この場所はクロード王子も知っていましたが、開け方は俺しか知らなかったので、今までずっとここに置いてありました。役に立てるといいんですが・・・」
「素晴らしい・・・これを作り上げる魔力が優希様にはあったと言う事ですか?」
ジェナが興味津々で尋ねてくる。モーリスも大司祭も感心しながら紙に書かれた方式を見つめる。
「そうですね・・・魔力も必要ですが、こうやって数式や魔法陣、あとは組合せなどを試していくとみなさんにも使えると思います。魔力が足りない分は魔石が力を貸してくれます」
淡々と話す優希に何度も頷きながら三人は耳を傾ける。
「俺の・・・私の偏りな知識ですが、原理は一緒だと思うので一緒に色々試してみましょう。あの移動の魔法も恐らく魔法陣を使ったものだと思います。あの者達が消えた場所、現れた場所、そこをもう一度調べれば魔法陣が描かれていると思います。それが解明できれば、移動場所を決めて魔法陣を設置する事で、国から街、隣国などへの移動が楽になります」
「それは確かに便利だな。それが可能になったら、緊急な事態があっても、無駄な体力を使わず護衛や兵を送れる。すぐにでも第二騎士と魔塔から数人選んで、各所を調べよう」
モーリスの案にジェナが頷く。
「あの・・・それから俺に魔石を一つ下さいませんか?」
「何に使うんだ?」
「私の移動に必要な物を作るんです」
優希はニカっと笑い親指を立てた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます