第47話 新たな展開

翌朝、王との謁見があった為、早めに朝食を済ませ、支度を始めた。

今日は魔法使いの衣装で行きたいと、優希はベットに座りながら衣装を手に取る。

上だけを着替えるなら座った方がいいが、なにぶん上げる事も難しい足では、スボンを座ったまま履くのは難しい。

それより、足を入れてベットに寝そべりながら重力を使って履く方が簡単なのだ。

離れた所で身支度をしているクロードは、何度も心配そうに声をかけるが、当の本人は慣れた手つきで着替えて行く。

黒の緩めズボンに、上から被せるだけの膝丈まである黒の少しタイトなロングTシャツみたいな服、そして少しパンク系の入ったロングジャケットを羽織る。

「それにしてもクロードさん、俺がこの服が欲しいってよく分かりましたね」

そう尋ねる優希に少し申し訳なさそうな顔で、クロードが答える。

「その・・・すまない。優希の事が恋しくて、見てはダメだとわかっていたのだが、優希が付けていた日記を見てしまったんだ。そこに、幾つが図案があったから、優希が帰ってくるかも知れないからと数点作ったのだ」

本当に申し訳なさそうに優希の顔をチラチラ見ながらクロードが話す。

優希は微笑みながらクロードに手招きする。

ゆっくりと近づいて来るクロードの手を取り、隣に座らせる。


「あれは俺とクロードさんの話を書いただけの物だし、ほぼ俺の落書きです。ここには写真とかも無いですからね。2人の思い出の品だと思ってくれればいいです。それより、服、ありがとうございます」

お礼を言いながらクロードに抱きつくと、安心したのか不安げな顔は一気に綻び、優希を抱きしめ返す。

「クロードさん、お願いがあります」

「何だ?」

体を離し、クロードが覗き込むように優希を見つめる。

「靴、履かせてくれますか?この衣装に、持ってきたスニーカーじゃ合いません。せっかく靴まで用意してもらったから履いて行きたいんですが、俺には難しそうです」

ベットの側に置かれたブーツを指差しながら、クロードを見上げる。

クロードはふふッと笑みをこぼしながら、優希の足元に膝をつくとブーツの紐を緩めて、優希の足を入れる。

「王子様なのに、こんな事させてごめんなさい」

「何を言う?たかがこんな事で謝るな。私は優希の力になれて嬉しいんだ。その為ならいくらでも膝をついてやる。よし、できた。では、行こうか」

そう言って、クロードは優希を抱き抱え、部屋を出る。


「クロード様と優希様がお見えになりました」

大きな扉の前で男の声が響く。

クロードは優希の手を取り、優希は杖をギュッと握る。

ドアがゆっくりと開かれると、中央には王が座り、その横にモーリスが立っていた。

敷かれた赤いカーペットの両脇には、沢山の護衛や官職者らしき人達が並んでいた。その光景に優希はたじろぎ、クロードへ耳打ちをする。

「クロードさん、今日は王様との謁見じゃないんですか?何です?この人達?」

「すまない。私にも何が何だが・・・」

2人でコソコソと話をしているとモーリスが歩み寄れと声をかけてきた。


ゆっくりと優希の歩幅に合わせ、王の元へと歩み寄る。

近くまで来ると優希は頭を下げ、クロードは膝を付く。

優希はすかさず王へと顔を向け、言葉を放つ。

「申し訳ございません。本来なら、私も膝をつくべきですが、この通り足が不自由の為、膝をつく事ができません。ご無礼をお許し頂きたいです」

優希の丁寧で柔らかい物言いに、周りが騒つく。

「良い。少し長くなるから、誰か椅子を持って参れ」

その言葉に端で待機していた使用人が椅子を運ぶ。

優希はゆっくりとその椅子に腰を下ろした。

「我が国の為に大きな貢献をしてくれた。感謝するのが遅くなった事をまず詫びよう。すまなかった。そして、心から感謝を述べる」

淡々と話を始める王に優希は頭を下げる。

「この場に他の者達がいる事に疑問を持っていると思うが、モーリスと話し合って内密にこの場を開いた。まずはクロード、一歩前へ」

そう言うと、王はモーリスに手を翳す。

クロードは言われるがまま一歩前に出て、また片膝をつき、頭を下げる。

モーリスが何かを手にクロードへと近づく。

「お前は後継者権を破棄し、モーリスの補佐官になると申したが、本日をもって継承権を与える」

「なっ・・・」

その言葉にクロードが顔を上げる。

モーリスがトレイに乗せた王家の紋章が入ったブローチを差し出す。

「陛下!これは受け取れません!」

声を上げるクロードに、モーリスは隣にいた補佐にトレイを持たせ、ブローチを手に取り、クロードに立つよう促す。そして、王も言葉を付け足す。

「無論、次期王にはモーリスと決めている。だが、お前を第二後継者として置く事で、この国は安泰するのだ。ただの補佐官ではない。モーリスを支える為の右腕となり、この国を治めるのだ。お前はモーリスの兄でもあり、我が息子だ。私の過ちで一度は溝ができたが、それもこれから修繕できると思っている」

「陛下・・・」

唖然と王を見上げるクロードに、優希が小さな声で立つ様に声をかける。

クロードがゆっくりと立ち上がると、モーリスはクロードの胸にブローチを付ける。

「俺達の絆がこの国を強くする。よろしく頼むぞ、兄上」

「モーリス・・・」

目を潤ませるクロードに小さな声で耳打ちをする。

「もう立派な王族だ。人前で泣くんじゃない」

モーリスの言葉に小さく頷き、後ろを振り向くと歓喜の拍手が送られる。

そばにいる優希に目をやれば、涙を流しながら親指を立て、それから力いっぱいに手を叩いて喜んでくれていた。

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