第46話 ただいま
朝食を終えてから外に出ると馬車が用意されていた。
クロードの支えがあるとは言え、優希の足への負担を考えると時間はかかるが馬車での帰路がいいと、昨夜、優希が寝た後にクロード達が手配をしていた。
モーリスは先に城に戻ると言い、2人の護衛を残し、残りの護衛と一緒にクロードの馬を引き連れ、先に出発した。
優希とクロードは馬車に乗り込み、帰路の間、時間が決めれていた通信では話せなかった事を沢山話し合った。
ほとんど優希の話だったが、それでもクロードは嬉しそうに話を聞いていた。
離れていた時間を埋めるように、ずっと互いに寄り添い、会話が尽きないほど楽しい時間を過ごした。
「優希、着いたぞ」
いつの間にか寝てしまった優希を抱えて、馬車を降りる。目を開けると懐かしい邸宅と使用人達の姿が目に止まる。
「クロードさん、降ろしてください」
優希に言われ、ゆっくりと優希を下ろす。優希は杖を掴み、ゆっくりと歩く。
使用人達の側まで来ると、優希は満面の笑みを浮かべた。
「みんな、ただいま。俺、足悪くちゃったけど、なるべく迷惑かけない様に頑張るから、また、仲良くしてください」
そう言って頭を下げる優希の姿に、周りが目を潤ませ、優希を取り囲みながら口々にお帰りなさいと告げる。そこにウィルが加わり軽くお辞儀をする。
「優希様、帰りを心からお待ちしておりました」
「ウィルさん、ただいま。また、お世話になります」
「優希様はクロード王子の婚約者であり、既にここのもう1人の主人でもあります。ここにいる皆、クロード王子と同じ様に優希様を慕っており、そして心から優希様に使える所存です。何でも申し付けください」
「ありがとうございます」
ウィルの言葉に目を潤ませ優希はお礼を伝える。
「さぁ、優希。中に入って見てくれ。部屋は1階に移し、優希が過ごしやすい様にみんなで考えたんだ」
クロードは微笑みながら、優希の肩に手をかける。
優希は頷き、ゆっくりと足を踏み出す。
そして、ドアを開けると懐かしい風景と香りに目頭が熱くなる。
屋敷を見渡すとあちこちに付けられた手すりに感動する。
ドアの側の手すりに捕まれば、優希の身長にちゃんと合わせられていて歩きやすくなっていた。
「みんな、ありがとう」
手すりを触りながら優希は涙を流す。
この手すり全てに、みんなからの愛情が伝わる。
転んでも大丈夫なように敷き詰められたカーペットには少しの段差もなく、歩くのに邪魔になる置物なども全て撤去されていた。
「俺、帰ってきて良かった。みんなが待っててくれて良かった。俺の居場所を残してくれて、こんな俺を変わらず受け入れてくれて、本当にありがとう。これからもよろしくお願いします」
溢れ出る涙を拭いながら屋敷のみんなに頭を下げる。
その姿にすすり泣く声が聞こえた。
「優希、もう泣くなと言っただろう?ほら、部屋も見に行こう。ウィル、少し部屋で休むから、紅茶を頼む」
「かしこまりました」
ウィルは頭を下げ、他の使用人にも持ち場に戻るよう伝える。
クロードは優希の涙を拭い、手すりを掴む手とは別の手を取り、優希の歩くペースに合わせ歩きだす。
数歩歩いてから優希は立ち止まり、クロードを見上げる。
「どうした?」
顔を覗き込むクロードに優希は耳打ちする。
「クロードさん、俺、今気付いたんですけど・・・」
「何だ?」
「俺、ただいまとかお帰りのキスをまだして無いです。だから、早く部屋に連れてってください。ウィルさんが来る・・・うわぁっ」
最後まで言い切らない内にクロードは優希を抱きかかえ、足早に部屋へと連れて行く。
そして優希を抱えたまま長椅子に腰を下ろすと、優希の頬を両手で包み、強引にキスをする。
「私がどれだけ我慢していたか・・・もし、記憶が戻っていなければ、手出しも出来ない。そうでなくても、寄り添う時間が必要だと思っていたから・・・だが、優希が構わないなら沢山したい」
そう言うと何度も啄む様なキスをした後、優希の目を見つめ、今度はゆっくりと深いキスをする。
思えばこんなキスをした事は無かった。今まではクロードの消極的な性格もあって軽いキスばかりだった。
息もしづらい程の濃厚なキスに優希は戸惑いながらも、クロードが自分を求めている事が嬉しかった。
やっと離れたと思ったら、愛おしそうに優希を見つめ、愛していると囁きながら今度は優しいキスをした。
優希もクロードに応えるように、俺も愛してますと囁き、優希からキスをする。
2人はウィルがノックするまで、微笑み合いながらキスを交わした。
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