第45話 戻ってきた風景

あれから寝不足だった優希は爆睡してしまい、気が付いたら朝になっていた。

クロードに手伝ってもらい、顔を拭いて着替えると、また抱きかかえられて部屋を出る。

食堂の席に着くなり、モーリスにドアを壊した事を告げ謝るが、モーリスは別に構わんと返した。

そして、俺でも壊したはずだと付け加えると、その言葉に今度はクロードが噛み付く。

「いくら弟でも、優希の裸を見るのは許さんぞ」

クロードの言葉にため息を吐きながら、モーリスはこいつの裸に興味はないと冷たく言い返した。

優希は可愛いのにとブツブツ呟くクロードに、優希は頭を撫でながらよしよしと嗜める。


朝食を摂り始めながら優希はそう言えばと、バックからファイルを取り出しペラペラとめくる。

「何だ、それは?」

モーリスの問いに優希はニコッと笑いながら答える。

「俺、帰るって決めてから、クロードさんとモーリスさんが、魔法服と忍者の服の話をしてくれたのを思い出して、かっこよさを説明する為に切り抜きを集めたんです。記憶がないのに、これだけ集められたって事は無意識に悔しさが残ってたんですね」

「・・・・・」

「これは戻ってからゆっくりと話すとして、あっ、コレです、コレ」

そう言いながら美久が写っている写真を取り出す。

「彼女を覚えてますか?あの時助けた美久さんです。実は彼女とは別々の場所に帰ったんですが、俺の事が気がかりだったみたいで、俺を探してくれたんです。そのおかげでクロードさんとモーリスさんの存在を知ったんです」

家族とうつっている写真を不思議そうに2人は見つめる。

「彼女、また家族と暮らせるようになって、行けなかった学校にも通えて凄く幸せそうでした。家族もずっと美久さんを探していたみたいで、とても感謝してましたよ。でも、良かった。ここに戻ってこの写真が消えたらどうしようかと思ったんですが、2人に見せる事ができました」

「・・・優希は誰かと会えたのか?」

心配そうにクロードは優希を見つめる。優希はもう一枚の写真を2人に見せる。

「俺は待ってる家族もいないし、目が覚めた時、前いた施設がなくなったと聞かされて凄く悲しかったけど、警察・・・ここで言う警備隊みたいな方が色々調べてくれて、施設でお世話になった施設長を探してくれたんです。その施設長がこの写真をくれました。ここの世界に来る前の俺の写真です」

懐かしむ様に写真を見つめながら優希は語る。

クロードも目を細め、写真を見つめる。

「ここに来る前だから15、16の優希か。昔も可愛かったんだな」

「お前はこんな幼い時から来ていたのか・・・」

「来た時は大変だったんですけどね。サッカー・・・ボール蹴る運動していたとは言え、ヒョロヒョロしてましたからね。5年も1人で暮らせば逞しくなりますし、今はまた痩せたとはいえ、杖を握ったり、体を支えたりしてたせいか腕だけは逞しくなりました」

そう言って、肘を曲げ力瘤を作って見せるが、2人に笑われてしまう。

「それのどこが逞しいのだ?」

モーリスの言葉にムッとした優希はふんっとそっぽを向く。

「剣で鍛えてる人と比べないで下さい。そもそも、ここの世界の人達はデカすぎるんです」

「そうだな。でも、優希はそれでいい。可愛いくて魅力的だ」

「クロードさんまで子供扱いしないでください」

顔を赤くして怒る優希を見て、また2人は声を出して笑う。

その笑顔を見て優希は懐かしさと戻ってきた実感が湧いて、内心では喜んでいた。

「そう言えば、美久さんが変な事言ってました」

「何だ?」

「俺達三角関係だと思ったそうです。俺が消える瞬間の2人の顔が痛ましくて覚えているとか。今思えば、モーリスさん、だいぶ俺の事認めてくれてたんですね。クロードさんはわかりますが、そんな悲しそうな顔をしてたって事は、モーリスさんも俺を家族と認めてて悲しんでくれたんだなって」

「・・・一応、兄の婚約者だからな。それに、お前との約束で今は王とも少しずつではあるがわだかまりが解けてきた。それには感謝している」

「本当ですか!?クロードさん、良かったですね!」

「あ、あぁ。優希のおかげだ」

ニコニコと笑顔でいる優希と反対に、クロード達の間に少しだけ気不味そうな雰囲気が流れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る