第44話 戻ってきた風景

「全くお前というやつは・・・・」

泣き過ぎて目がパンパンに腫れてる優希に、モーリスが服をハンカチで拭きながら文句を垂れる。

あれから一旦泣き止んだ優希だったが、モーリスがいる事に気付き、歩けないからここに来てと声をかけ、近づいたモーリスに抱きついてはまた泣き始めた。

おかげでモーリスの服は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。

「おい、お前も拭いた方が・・・いや、お前は着替えが必要だ」

クロードにハンカチを渡そうとしたが、モーリスの上をいく汚れっぷりにため息をつく。

モーリスは近くにいた護衛に先に宿を取る様に伝え、行くぞと優希に声をかけ、杖と優希のバックを手に取る。

クロードは優希を抱きかかえ、歩き始めた。

外に出ると何頭かの馬が木に繋がれていた。

「馬車だと時間がかかるから、皆で夜通し馬を走らせてきた」

クロードは優希に説明しながら、黒い馬の側に行き、優希を跨らせる。

その後ろにクロードが乗ると、もう一頭の黒い馬にモーリスも乗る。

「黒い馬は皇族の印なんですか?」

「あぁ。皇族のためだけに繁殖させた良馬だ」

「かっこいい・・・」

馬を撫でながら優希は歓喜のため息を溢す。

その笑顔を見たクロードは優希の腰に手を回し、耳元で囁く。

「今度、一緒に遠出しよう。今はしっかりと掴まれ。私も後ろから支えてやる」

その言葉を合図にクロードは馬の腹を軽く蹴ると、馬が歩き出した。

クロードを先頭に、モーリスと護衛達が付いてくる。

初めて乗った馬に興奮しながらも、腰に回されたクロードの手の温もりと、背中にある温もりに優希は笑みが止まらなかった。


宿に着くと、着替えからにしようと言うモーリスに、お腹空いたと優希は抗議し、先に食事を取ることになった。

食事をしながら、優希は記憶が戻った事と女神様に会った話をした。

「では、優希はまた魔法が使える様になるのか?」

クロードが目を輝かせ尋ねると、優希は人差し指に小さな火を灯し、このレベルですと告げた。

「女神さんが言うには、また訓練しないといけないらしいです。それで、また治癒能力が戻れば足もどうにかなるかもって話です。でも、前みたいにスムーズには行かないみたいです。それに、何かまた試練があるとかどうとか・・・」

その言葉にクロードとモーリスは眉を顰める。

「また、何か起こるのか?」

モーリスの問いに優希はしばらく考え込んで答えた。

「はっきりとはわからないんですが、多分、闇魔法が一度は現れた事で魔物が出るとかそういう類では無いかなと・・・特に戦争が起きるとかでは無いと思います。ただ、何かが起きた時に俺が加わっていかないといけないっぽいです。だから、早めに魔力を回復しないといけないです」

口にお肉を放り込みながら答える優希に、モーリスはため息を吐く。

「何故そうも呑気なんだ?」

「呑気ではありません。ただ、それが俺のここにいる条件みたいな物だから受け入れてるだけです。モーリスさんが後継者として、クロードさんがモーリスさんの補佐としてそこにいる為にやらないといけない事をやる、それと一緒です。俺はこの世界に、クロードさんの側にいたいんです」

「優希・・・今度こそ、優希を守らせてくれ。その為にも私はもっと強くなる」

力強い目でクロードは優希に言葉をかける。

クロードの言葉の後に、モーリスも力になると答えた。

優希は親指を立て、一緒に頑張りましょうと返事をするとニカっと笑った。


食事を終えてから各々の部屋に戻ると、クロードは一緒に風呂に入ろうと優希に声をかけるが、嫌ですと即答され、渋々引き下がる。

「椅子を脱衣所と風呂場に置いてくれれば、1人で出来ます。自分でできる事はなるべく1人でやりたいんです。甘えてばかりだとお荷物になるから」

言葉の最後を小さく呟くと、クロードが側に寄り優希を抱きしめる。

「わかった。でも、お荷物とか二度と口にしないでくれ。私はそんな事は絶対に思わない。優希の笑顔が見れればそれでいい。それでいて、私を一番に頼ってくれたらそれだけで嬉しいのだ」

「・・・ありがとうございます。俺も嬉しいです」

しばらく抱きしめあった後、クロードが椅子をセッティングしたり、服を準備してくれたりしたが、思ったより手すりが無いお風呂に苦戦し、やっと体を洗い終えてから、体を起こそうとしてバランスを崩し派手に転ぶと、クロードがドアを蹴破り入ってきた。

「優希!大丈夫か!?」

「いたた・・・クロードさん、慌て過ぎです。ドア、壊れたじゃ無いですか」

「そんなもの弁償すればいい。優希の体の方が大事だ」

持ってきたローブを優希の体に纏わせ、抱き抱える。

そのままベットに運ばれ、そこに座らせる。

クロードはタオルを取ってきて隣に腰を下ろすと、優希の髪を拭き始めた。

「はぁ・・・自分が情けない・・・」

しょんぼりしている優希にクロードは優しく微笑む。

「ここには手すりが無いから仕方ない。優希、実は優希から足の事を伝えられてから、屋敷を改装したんだ。モーリスも手伝ってくれて、今は屋敷中に手すりをつけてある」

「クロードさん・・・」

「だから、安心して屋敷に帰るといい。使用人達にもなるべく手を出さない様に伝えるが、私がいない時に困った時は、遠慮せずに使用人達に声をかけるんだぞ。屋敷の皆が優希の帰りを心待ちにしているんだ」

「クロードさん・・・本当にありがとう」

クロードに抱きつき、鼻を啜る。クロードは優希の頭を撫でながら、これ以上泣くと目が解けるぞと笑う。優希は黙って頷いた。

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