第43話 おかえりとただいま

「くすん・・・女神さん、ひどいや」

鼻を啜りながら、コップにチョロチョロと水を溜める。

あれから暗闇の中、目を覚ました優希は、明かりを灯そうと女神が言った力を試すために呪文を唱えた。

そして、その力が以前の様に人差し指に蝋燭の炎の様に小さく灯ったのを見て、項垂れた。

わがままを言えば、もう少し力が欲しかった。これでは以前の生活に逆戻りだ。

足が悪くなければそれも良しとしたが、これではかなり過酷な生活になる。

何もこんな事を過酷にしなくてもと嘆きながら、溜まった水を飲み干す。

「お腹、空いたな・・・」

小さく揺れる蝋燭の炎を見つめながら、さっきからもの凄い音を立てるお腹をさする。

ため息をつきながら、呪文を唱え、指先に明かりを灯すと蝋燭の灯りを吹き消す。

杖をつきながら、足元が見えない事に不安を覚えつつ、5年も過ごし歩き慣れた小屋の中を思い出しながら歩く。

部屋に入ると、また蝋燭に火を灯し、風を使い窓を開ける。

少しだけベットを叩いて、そこに寝そべる。

力は弱いもののコントロールは出来る様だ。

開かれた窓に視線を向け、部屋を覗く月を見つめる。

クロードさんとどうやって連絡を取ろうか・・・ブレスに込めるには、俺の魔力は足りない・・・会えるのかな・・・

静かな部屋に外からカサカサと揺れる葉の音がする。

優希は指をくいくいっと回し、窓を閉める。

とりあえず寝よう。それからこれからの生活と、方法を考えよう。

ここで5年も生きて来れた。きっと出来る。

自分に力強くいい聞かせ、優希は目を閉じた。


日も登り切らない内に優希はベットから起き上がる。

「ダメだ・・・お腹が空きすぎる・・・」

獣の叫び声のようになるお腹をさすりながら、ため息をつく。

光が現れたあの日、緊張から夕飯を食べれずにいた。

そして昨日の出来事で気絶していた優希はまる一日と半、食事ができていなかった。ゆっくりと立ち上がり、杖を掴みながらキッチンへと向かう。

椅子に腰を下ろし、またコップにチョロチョロと水を溜めながら、まずは食料を確保に行こうと決意を固めていると、ドアが荒々しく開かれる。

「優希!いるのか?!?」

その声に視線を向けると、息を切らしながら赤髪を揺らす男が立っていた。

そのあとを数人が雪崩れ込んで来るが、優希には赤髪の男しか目に入らなかった。

「良かった・・・無事なのか?」

ズカズカと優希に歩み寄る男が近寄るにつれて、優希の目頭が熱くなる。

「優希?どうした?」

目の前に立ち、優希を見降ろす銀色の目が不安の色を示す。

「ふっ・・・うっ・・・クロードさーん!」

堰を切った様に優希は大声で泣き始めた。その姿にクロードは慌てふためく。

「ど、どうした?どこか痛むのか?」

宙で動かす手が辿々しく優希の頬に触れる。

大粒の涙を指で拭いながら、優希の顔を覗き込むが、優希は嗚咽を漏らしながら叫ぶ。

「クロードさんのバカ!」

いきなりの暴言にクロードの手が止まる。

「何で近くに召喚してくれないんですか?俺、ここでまた1人で過ごすのかと思ったじゃ無いですか!」

優希の言葉にハッとしたクロードはすまないと謝りながら、優希を抱きしめる。

「俺、魔法使えないのに、昨日は獣も出て怖かったんです!」

「獣!?どこか、怪我したのか!?」

抱きしめていた体を剥がし、優希の体を見回す。

「け、怪我はしてません。ヒクッ・・・何かわからない光が出て俺を守ってくれました・・・うっ・・・でも、でも怖かった!」

「本当にすまない・・・」

大声で叫びながら泣き続ける優希を、クロードはまた抱きしめる。

「あと、あと、俺、お腹すきました!何も食べる物なくて、この足じゃ、外に出るのも怖くて・・・とにかく、お腹空きました!」

「そうか、すぐに何か食べに行こう」

優しく頭を撫でながら、優希を宥めるクロードもいつの間にか少し涙声になっていた。

「あと、あと喉も乾いてます・・・お風呂にも入りたい・・・」

「あぁ、そうだな。近くの宿に行こう」

「あと、クロードさん・・・」

「何だ?」

「ただいま・・・」

その言葉にクロードは耐えていた涙を流し、抱きしめた腕に力を入れる。

「あぁ・・・おかえり・・・」

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