第42話 頭を抱える

「詰んだ・・・」

ダイニングの椅子に腰掛けながら、優希は盛大なため息と共に愚痴を溢す。

あれから全部の記憶を取り戻した優希だったが、ある事実に気付き、それまで大量に流れていた涙は引っ込み、青ざめる。


「え?俺、最初からやり直し?」

どう見ても誰もいない森と小屋、事情が全くわからない。

召喚されたはずなのに、何故、この小屋にいるのか、この世界の時間が巻き戻ってしまったのか、何もかもが理解できなかった。

「いや、でも、クロードさんと植えた野菜が生えていたし・・・」

ブツブツと呟きながら、頭を抱える。

そして、テーブルに肘を置き、指を重ね合わせて祈る。

「女神様?いらっしゃいますか?俺はこれからどうしたら・・・。この足では、釣りも木の実探しも無理です。ましてや、街に手紙を出しに行くなんて無理ゲーです」

先ほどの感動の涙とは違う涙が流れる。

「せめて、ほんの少しでいいから魔力を分けてください」

静まり返る小屋に優希の呟きだけが虚しく響く。

優希はやるせない顔でテーブルに伏せる。

すると、玄関のドアの方から物音が聞こえる。

クロードさん!?

そう思い、慌てて杖を持ち立ち上がる。

ゆっくりと足を進めて、ドアをゆっくり開けクロードの名を呼ぼうとした瞬間、優希は目の前の光景に固まる。

畑の野菜を猪のような巨大な生き物が食べている。

優希はそっと気付かれ無いようにドアを閉めようとするが、ドアがキィッと小さな物音を立てる。

(このボロドアー!!)

そう思ったと同時に、視線の先に優希を振り返り見る獣の姿を捉える。

ゆっくりと後退りする優希だが、足が思うように動かず、その場に倒れ込む。

グルグルと喉を鳴らし、近づいてくる獣に視線を逸らさず、手とお尻を使って後ずさる。

離れてしまった杖を掴むと、目の前に翳す。

その様子を嘲笑うかのように獣は突進してくる。

だめだ・・・!俺、死んじゃう・・・!

杖を握りしめたまま目を閉じた瞬間、目の前を光が包む。

獣は何かに弾かれた様に後ろの壁に弾かれて倒れ込む。

それでもゆっくりと立ち上がり、優希へと突進してくるが、優希の目の前には光の盾ができており、何度体当たりしてもその光は崩れる事はなかった。

その内、傷だらけになった獣は諦めて小屋を出て行った。

優希は握りしめていた杖を落とし、這いつくばりながらドアの元へより、力強く締めた。そして、ドアに背もたれながら、ガタガタ震える体を自分で抱きしめる。

「な、何が起きたんだ?いや、それより、このままでは危険だ。どうすればいい?クロードさん、クロードさん、俺、怖い・・・」

極度の緊張が優希の意識と遠のかせる。ドアにもたれたまま、優希の体は倒れた。


「優希・・・目を覚ますのだ・・・」

眩い光に中で誰かが優希の名を呼ぶ。ゆっくりと目を開けると、光の中に一筋だけ金色の粉を散りばめた様な光が差し込んでいた。

「女神様・・・?」

「また戻ってきたのだな・・・」

「はい・・・どうしても、クロードさんの側に来たかったんです」

「そうか・・・お前は使命を請け負おう運命にある。それでも、ここに残るか?」

「俺、足がこんなですよ?役に立ちますか?」

「少しだけ私の力を授けよう。多く授けるにはまだ、お前は未熟だ。一からまた学び直すのだ。さすれば、その足も治せるかもしれん。ただ、それまでは過酷であり、使命もこなさなくていけない。それでも、やるか?」

「はい。それが俺の使命なら、それがクロードさんの側にいれる条件なら、やります」

「承知した・・・・」

その言葉を最後に一筋の光はキラキラと散り、消えた。

優希はまた眠るように目を閉じる。

たとえ足が治らなくても、クロードさんの側にいれるなら、俺は頑張れる。

あの優しい声で俺の名を呼んで、愛おしそうに俺を見つめて微笑んでくれるなら、俺はそれだけで幸せだ・・・。

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