第41話 光の中へ

あれから優希はすぐに美久と連絡を取った。

クロードの元に戻ると伝えると、美久は優しくそうですかと答えた。

それまでに身の回りの事を一緒に片付けて欲しいと願い出ると、翌日の朝には家族と一緒に来てくれた。

「私1人では力になれないだとろうと思って。それに、きちんと家族を紹介したくくて・・・」

そう言うとご両親と姉、弟を紹介してくれた。

互いに微笑み合う姿が優希を笑顔に誘う。

それから荷物の整理と、この部屋やいろいろな手続きの相談をした。

優希が戻ってから色んな人に世話になった。

だからこそ、うやむやのまま消えたりしたくなかったからだ。

仕事も急だが退職願いを出した。

上司は驚いてはいたが、優希を普段から気遣ってくれていた人でもあったから、優希の申し出に理解を示してくれた。

それから施設長にも連絡した。

遠くへ行くと告げた優希に、また会えなくなることを心配で涙してくれたが、優希は自分の居場所に戻るだけなので、心配しないでと伝えた。

色々と片付けしていく中で、優希は改めて気付く。

思っていたよりも、たくさんの人に支えられてきた事を・・・。

足をひきづる姿を見て、怪訝そうな顔や揶揄う人もいた。

あからさまに嫌がらせをしてくる人も・・・だが、そんなに多いとは言えないが、自分に味方がいる事がどんなに力になっているのか思い知らされる。

「俺は幸せ者だ・・・」

そう呟きながら、最後の箱を閉じる。

元々あまり物を置く習慣はなかった。

施設で暮らしていた時、部屋は共同だったからあまり私物を多く置く習慣もなく、節約も根っから染み着いた癖だ。

見渡せば、手すりだらけで殺風景な部屋だが、少しの間だったとは言え、独り立ちを始めた場所でもある。

本当は美久みたいに学校にも行きたかったが、優希には親もお金もない。

明るく振る舞っていたが、不自由な足、環境、空白の時間、恨んだ事がないと言えば嘘になる。

それを、この部屋でじっと耐えてきた。

だからこそ、思入れがあった。

優希がいなくなった後は、全て美久と美久の家族が引き受けてくれる事になっている。

床に座っていた優希はベットに掴まり、片足を立てながら立ち上がり、ベットに腰を下ろす。

ベットの傍らにあるバックを取ると中身を確認する。

数枚の衣類と一冊のファイル・・・そのファイルを開くと、その中には、美久の家族写真と昔撮った施設での写真が挟まれていた。

15の自分と、その当時いた年下の子供達、施設長にあの結婚指輪を見せてくれた女性も写っていた。

その写真を撫でながらしばらく見つめると、部屋がほんのり光だす。

優希はファイルをバックにしまい、足を確認する。

足首には固定する器具がしっかりと付いており、その側には脱ぎ着しやすい靴があった。

バックを肩に襷掛けすると、靴を持ち、立てかけてあった杖を握りしめる。

ゆっくりと立ち上がると、その光の中へ一歩ずつ足を進める。

手に触れるほど近付くと光が優希の体を包み込む。優希はそっと目を閉じた。


「・・・・ここはどこだ?」

明るい日差しに目を開けるとでかい湖の前にいた。

何となく見覚えがある目の前の風景に、ふっとクロードから聞いた出逢った森を思い出す。

何故ここに・・・と思いながらも、辺りを見回し腰かけられる所を探す。

すると湖の側に盛り上がった岩があるのが目に入る。

そこまで、体を引きづり何とか腰を下ろすと持ってきた靴を履き始めた。

ふっと顔を上げた瞬間、脳裏に映像が浮かぶ。

今日は釣れるかな・・・そう言いながら、釣り糸を垂らす自分の姿・・・

はっと我に変えると、慌てて杖を掴み立ち上がり、辺りを見回す。

「俺、俺、ここ知ってる・・・」

そう呟きながら、湖の脇にある細道を探す。

風がさらっと優希の髪を撫でた時、目の前に細道が現れ、ゆっくりとその道へ歩く。そして、その道を辿っていくと懐かしい小屋が目に留まる。

近寄ると、家のそばに葉野菜が伸び放題になっている。

頭の中にいろんな光景が走馬灯の様に走り抜ける。

震える手でドアを開けると、目の前に赤毛を束ねた背の高い男性がこっちを向いて微笑んでいる・・・・。

その光景は一瞬にして消えるが、優希はそれが誰かわかっていた。

「クロードさん・・・・」

その名を漏らした瞬間、優希の頬を涙が伝う。

思い出した・・・俺、帰ってこれたんだ・・・クロードさんがいるこの世界に・・・

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