第39話 変わらない愛
「おい。政務をサボって何をしている?」
ドアを荒々しく開け、クロードの部屋にモーリスが入ってくる。
クロードはモーリスに目もやらず、ブレスを握りしめていた。
「通信が切れたのか?」
モーリスの問いに、クロードはわからないと答えた。
「もう三日も連絡がない」
「・・・いつか切れるとわかっていただろう?」
「わかっている。だが、きっとそうじゃない。優希があえて連絡してこなのだ」
「・・・何があった?」
モーリスがクロードの向かいに腰を下ろしながら尋ねると、クロードは重い口をゆっくりと開いた。
「魔法陣が見つかって、もうすぐ会えるかもしれないと話したんだ」
「・・・断られたのか?」
「いや・・・優希は元の世界に戻った時、死と隣り合わせの重傷だったそうだ。そのせいで記憶を失くした・・・それから・・・左足が不自由になったそうだ」
「・・・・」
「何かに掴まらないと部屋も移動できず、外では杖をついて歩いてるそうだ」
「そうだったのか・・・」
クロードの話にモーリスは言葉を詰まらせ、項垂れる。
「ここでちゃんと面倒を見ると伝えたのか?」
「それは・・・その前に私が優希を守れなくてすまないと謝ったら、優希が怒ってしまった・・・。記憶を無くす前の優希なら謝って欲しくないはずだと・・・今のその姿でここに来て、私の気持ちが同情に変わるのが怖いと・・・」
「・・・変わるのか?」
「それはない!謝ったのは同情心ではない。私は優希が側で笑ってくれればそれでいい。記憶がなくても、また2人で作っていけばいい。足が動かなければ、私が足になればいい。優希を想う気持ちは確かに愛だ。なのに、伝える前に通信が途絶えてしまった・・・」
クロードは、ブレスを握る手をおでこに当て、すぐに言ってやれなかった自分を恨む。モーリスは深いため息をつくと立ち上がる。
「ならば、それまでやる事やりながら待つんだな」
その言葉にクロードは顔を上げる。
「やる事とは・・・?」
「沢山あるだろう?この邸宅をあいつ仕様に変えるんだ。お前の気持ちを伝えて、いつでも迎える準備はできていると言うんだ」
「・・・・」
「しばらく政務は休んでいい。落ち込む暇があったら動け。寝室も1階に移すんだ。行動範囲には手すりをつけろ。資金は金庫から出す。第一王子の婚約者であり、この国を守ってくれた者への慰労費だ。王も許可するだろう」
「・・・・すまない。恩にきる」
ふんっと鼻を鳴らし、モーリスは部屋を出ていく。
クロードはすぐさまウィルを呼び、優希の状態を伝え、邸を改装すると伝えた。
ウィルはすぐさま業者を呼びつけ、優希の身長に合わせた手すりを考案する。
他の使用人は1階にある一番広い応接間を片付け、2階の優希の荷物と入れ替える。
ついでにクロードの部屋の荷物も運び出す。
いつでも優希に寄り添える様に同じ部屋で過ごす為だ。
後から本邸の使用人も数人来て入れ替えの準備を始めた。
おかげで入れ替えだけは一日で終えた。
工事は明日にでも着工するだろう。
優希が使っていた机を撫でながら想いを馳せる。
優希がもしここに来ないと決めたとしても、私の気持ちを全て話そう。
そして、ここにいるみんなが帰りを待っている事も・・・優希が与えた愛情がここには溢れている。
今ある私の笑顔も、使用人達の笑顔も、家族として歩み寄り始めた私達家族の笑顔も、全て優希の愛だ。
誰も離れたりはしない。
私は心から優希の側にいて、優希を愛したいと願っている。
誰よりも愛しい人だから・・・。
翌朝、モーリスが数名の従者を連れてきた。彼らはあの事件以来、集められた魔法に長けている者達で、優希の様に剣を握れなくても、魔法の能力を高めて騎士達と応戦できるように、新たに設立した部門のメンバーだった。
魔法陣を解析しているメンバーでもある。
何事かと驚いているクロードをよそに、ブレスを寄越せとモーリスは詰め寄る。
躊躇いながらもブレスを渡すと、それを取り囲む様に従者達が何かを話始めた。
「モ、モーリス、これは何なのだ?」
「この魔法石を調べているんだ。術者があいつだから、どこまでやれるのか分からないが一瞬だけでもあいつの前に姿を見せられないかと思ってな」
「そんなことができるのか!?」
「あまり期待するな。どこまでやれるのか、わからない」
ブツブツと話し込む集団をクロードは見つめながら、期待するなと言われたばかりなのに、期待せずにはいられなかった。
その内、1人の従者がクロード達へと振り向き、目を輝かせながら話しかけてきた。
「この魔法は素晴らしいです!!ぜひ、この術者とお会いしたい」
「召喚ができれば会えるはずだが、以前の様に魔法が使えるとは限らない」
冷たくいいはなつモーリスの言葉に、クロードはドキリとする。
ほんの少しだけ以前の魔法が使える事を期待していたからだ。
もし、使えるなら優希の治癒魔法で足が治せるかも知れない、そう思ったからだ。
こんな考えが、優希を不安にさせているだろうか・・・足が不自由でも構わないと思っているのも事実だが、期待もしてしまう・・・・。
何故なら、思い出の中にある優希はいつも活発的で、この邸宅内を元気に駆け回っていたからだ。
クロードが項垂れているのに気づき、モーリスが肩を叩く。
顔を上げると変わらないんだろ?とまた問いかけてきた。
その問いにクロードは力強く頷く。
「王子、この魔法に映像をねじ込む事は出来そうですが、そうなるとこの魔法石が耐えられなくなるかも知れません。つまり・・・通信も切れる可能性があると言う事です。それでも、やりますか?」
従者の問いかけに、クロードは躊躇わずに頷いた。
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