第37話 愛しい人

「いいですか?クロードさん、これが光ったら俺の場所が光の中に現れます。それから、俺がクロードさんの名前を呼ぶと話せるようになるんです。凄いでしょ?」

「あぁ。優希は天才だな」

「ふふっ。これならもし離れててもいつでも話せますよ。だから、不安にならないでくださいね」

そう言って優希はクロードを抱きしめる。

クロードも優希を抱きしめ返し、好きだと囁く。

幸せそうに2人が微笑み合う・・・・。


「はっ・・なんだ、今のは・・・」

優希は目を開け、辺りを見回し、自分が夢を見ていた事に気がつく。

それから頬を伝う涙に気づき、それを拭った。

腕に付けたブレスを見ながら、昨夜、落ち着きを取り戻した優希は、美久にすぐに電話した事を思い出す。

このブレスについて美久に尋ねたが、優希が考えた追跡装置が付いているとしか聞いていないと答えた。

それから、もう一つ機能があるが内緒だと言われたと・・・。

優希は体を起こし、夢での会話を思い出す。

名を呼べば話せる・・・確かに昨日もクロードの名を読んだ時にブレスが光った。

半信半疑で、ブレスを腕から外し何度かクロードの名を呼ぶ。

すると、砂嵐の様な雑音からまたあの声が聞こえた。


「優希!優希!」

何度も呼ぶその声が愛おしくてたまらなかった。

「あなたはクロードさんですか?」

辿々しく答える優希に、クロードはそうだと答えた。

「私がわからないのか?」

「すみません。俺には5年以上の記憶がありません」

「そんな・・・」

落胆した声に胸が苦しくなる。

「俺、あなたの事が知りたいです」

「優希・・・私は優希の婚約者だ。他の誰より心から優希を愛している」

その言葉に涙が溢れる。啜り泣く声が聞こえたのかクロードが心配そうな声をかける。

「優希、泣かないでくれ。体はもう大丈夫なのか?あぁ・・・優希に会いたい」

「何も思い出せなくてごめんなさい。でも、俺もあなたに会ってみたい」

涙ながらにそう伝えるとクロードも声を詰まらせる。

「おい、お前!聞こえるか?」

「誰ですか?」

突然聞こえた荒々しい声にびっくりするも、その声ですら懐かしく感じる。

「本当に覚えていないのか?」

「ごめんなさい」

「泣くのも謝るのもやめろ。お前がしおらしいと体が痒くてたまらん。こちらもクロードが泣いて話が進まないから要件だけ話す。この会話もいつまでできるか、わからんからな。あれから残党を見つけて、召喚魔法を調べている。だから、その内、何か糸口が見つかるはずだ。それから、覚えていないお前に言ってもわからんだろうが、王は約束を守った。以上だ」

そう言うと、隣で泣いているであろうクロードに話しかける。

「おい、いつまで泣いているんだ?この魔法もいつまで使えるのかわからんのだぞ。このまま途切れたらどうする?」

「いや、だめだ。優希!優希!聞こえるか?」

慌てて話しかけるクロードに、優希は笑みが溢れる。

「聞こえます。もっと話してくれますか?俺が思い出せるように」

「あぁ。この魔法が消えるまでずっと話そう」

そういうとクロードは出会った時の話から始めた。

優希は目を閉じ、クロードの話に耳を傾けた。


それから毎日夜になると、クロードの名を呼び、話すようになった。

あれからまだ、何も思い出せていないが、クロードと会話できる事が楽しくてしょうがなかった。

ただ、この機能は一日一回で、一時間程度で切れてしまう。

それがわかってからはクロードの2人の話を半分、残りは今日あった事などを話すようになった。

クロードは優希の話が、優希の世界の話がよくわからないようであったが、それでも真剣に聞いてくれた。

逆に優希は何も思い出せないのに、クロードの話に懐かしさを感じていた。

それは、本当にクロードの世界で、クロードと過ごしていた事を裏付けていた。

それが愛おしくもあり、寂しくもあり、切なかった。

会話が終わりそうになると、いつもクロードは愛していると何度も呟いてくれた。

優希はその言葉を聞く度に涙を流す。

その言葉にこんなに胸が締め付けられる事が、クロードを想っている事だとわかっていたが、それを伝える事ができないでいた。

だが、クロードは記憶がない優希を思ってか、それについては何も言わず、ただ愛してると言い続けた。

それに涙する優希が愛おしかったからだ。

何も返してくれなくても優希の気持ちがクロードにあることは伝わっていた。

それが嬉しかった。

だから、尚更、クロードの気持ちは変わらず優希を想っていると伝えたかった。

愛している・・・それだけを伝えたかった。

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