第35話 再会
優希が目覚めたのは病院のベットの上だった。
医者から聞いた話だと、意識不明で道に倒れていたそうだ。
体は衰弱し、その事で高熱が何日も続き、肺炎と脳にまで異常が出たらしく、一時期は危篤状態だったとの事。
そのせいなのか、優希はこれまでの事が何も思い出せないでいた。
身元を割り出す物がなかったからと、容態が落ち着いてから、警察と共に医者が付き添い、あれこれと聞かれたが、優希の記憶は16歳で止まっていた。
優希は自分の名を名乗り、住んでいた施設の名前を挙げた。
だが、警察の調べではその施設は一年前に経営不振で無くなったと告げられた。
突然聞かされた事実と、何も覚えていない不安から優希は泣き叫んだ。
警察と医者に嗜められ、警察からは当時の施設長の行方を探しているから心配するなと言われ、医者からは唯一身に着けていた物だとブレスを渡された。
そのブレスを見た瞬間、優希は更に悲しみが込み上げてきた。
これが何の悲しみかわからなかったが、そのブレスを握り締めながら何時間も泣き続けた。
二日後、警察がある人物を連れてきたと訪ねてきた。
年は取っていたが、その面影には見覚えがあった。施設長だ。
「優希・・・無事で良かった。心配したのよ」
そう言って泣きながら優希の元に駆け寄ると、優希も安堵からか涙を流す。
聞けば、優希は5年以上も前に行方不明になり、ずっと捜索願いを出していたが探せなかったらしい。
警察もいろんな方向から探してはいたが、自分で家を抜け出た可能性もあり、さらに5年以上も経っているので、中々身元を割れなかったと謝ってくれた。
5年以上の空白・・・俺は何をしていたのだろう。
何も思い出せず、ただただ不安だけが残る。
施設長はこれからの事を案じ、取り敢えず国に保護の申請をして、体が良くなったら働けばいいと提案してくれた。
優希は施設長にお願いし、体を治す事に専念した。
その甲斐があってか、それから一ヶ月で退院する事ができたが、脳にまで害がいった為、足に少し後遺症が残り、杖がないと引きずった足では歩けなくなってしまった。
それでも、持ち前の明るさを取り戻し、職業訓練に通う事にした。
半年後、アルバイトではあるが入力データーの仕事につけ、安定した生活が保てるようになり、保護を解除したが、後遺症が残った優希は障がい者として認定され、少しではあるが援助を受けながら暮らし始めていた。
「疲れたー!」
ベットに雪崩れ込むように寝そべる。
足が悪い事で寝起きが難しいと判断された優希は、布団でいいと言ったのにベットが用意され、最初は申し訳なさでいっぱいだったが、このふかふかのベットが思いの外、心地よくて今ではお気に入りだ。
優希は起き上がり肩をトントンと叩く。
「杖で歩くのは慣れたけど、たださえ杖を掴むのに力入るのに、パソコンの仕事もあってか肩こりが治らん」
固く凝り固まった肩を力良く揉み解すが、柔らかくなる気配がない。
熱いお湯でほぐすかとゆっくりと立ち上がり、手すり伝いにクローゼットを開けるとある事を思い出す。
「しまった。シャンプー切らしてるんだった。スーパーに間に合うかな?」
時計を見ると20時を回っており、携帯で近くのスーパーの営業時間を調べる。
「おっ、22時までじゃん。俺の足でも十分間に合うな」
そう言いながら、買い物用のリュックに財布を詰め、携帯をポケットにしまうと玄関に向かう。
玄関には靴を履く用に椅子が常備されている。
それに腰を下ろし、かけてあった杖で器用に靴を引っ掛け、足元に引き寄せる。
そして、ひょいと持ち上げて受け取ると、あまり動かない方の足を持ち上げ、靴を履かせる。それが終わるともう一つの足を持ち上げる。
何なくその作業を終えると、元気よく外に飛び出した。
ゆっくりとした足取りでスーパーへ向かい、シャンプーと明日の分の食材を買う。
明日は休みだが、たまには籠ってのんびり過ごそうと、おやつまで買い込みリュックに詰めるとルンルンと自宅に向かう。
「優希さん!」
不意に名前を呼ばれ振り向くと、年配の女性と、自分と同じ年頃の女性が立ってた。その女性は優希の姿に目に涙を浮かべ、近寄ってきた。
「優希さん、無事だったんですね。足、足はどうしたんですか?」
質問攻めで近寄ってくる女性に、頭の中で誰だっけ?と問いながら、今まで出会った人達を早送りの様に思い浮かべる。
「優希さん?」
彼女は不思議そうに優希を見つめてくるが、優希にはどうしても思い出せない。
「あの、どちら様ですか?」
「えっ・・・?私です!美久です!覚えてないんですか?」
美久という名前も、その女性の姿も思い出せずキョトンとしていると、美久はそんな・・・と呟き泣き始めた。
優希は訳がわからず、美久をなだめながら少しお茶を飲みながら話しませんか?と声をかけた。
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