第34話 最後の時

「王妃、貴様・・・」

モーリスは立ち上がり剣を翳しながら、王妃を睨む。

王妃はフンッと鼻で笑いながら、手下の男の頬打つ。

「役立たずが・・・外にいる者達もほぼ壊滅しておるぞ」

王妃の言葉に、男は慌てて体を起こし、頭を下げる。

王妃は舌打ちをし、クロード達に体を向けた。

「まぁ、いい。その優希とやらは暴走したおかげで魔力も底をつきかけている。それに王子達もだいぶ弱ってるようだし、今なら私達でも倒せる」

その言葉にクロード達は身構える。

「愚かな王妃に、愚かな王。そして、それを健気に支える王子と、くだらない愛に目覚める王子・・・本当に愚かな連中だ」

そう言って指をパチンと弾くと、クロードの脚に氷の塊が刺さる。

「グッ・・・」

「クロードさん!」

「クロード!」

うめき声を漏らしながら膝を落とすクロードに2人が叫ぶ。

クロードは大丈夫だといいながら刺さった氷を引き抜く。

すかさず王妃が指を鳴らすと、今度はさっきより大きな塊がクロードに目掛けて飛んで来る。

ガキーンッ・・・

激しい金属音の先にはモーリスが立ちはだかっていた。

「モーリス、やめろ」

クロード達を庇うようにモーリスは呪文を唱えながら、剣を振り翳し応戦する。

「主人、俺も加勢します」

王妃の側にいた男も呪文を唱え、風を巻き起こす。

それを見たクロードは立ち上がり、モーリスの側で応戦する。

(だめだ・・・どう見ても王妃に力がありすぎる)

目の前の光景に優希は不安の色を浮かべる。

男の加勢で巻き上がる風が、王妃の氷を削り、クロード達の体に刺さる。

だが、2人は血を流しながらも呪文を唱える口と、剣を振りかざす手を止めない。

そして優希はふと気づく。2人が優希を庇うようにわざと氷を受けているのだと・・・。

「ダメ・・・ダメだ。クロードさん、モーリスさん、やめて・・・」

優希の声に耳を傾けず、前を向いて2人は応戦し続ける。

1番望まなかった結果が目の前に繰り広げられている。

俺は何もできないのか?愕然とした光景に涙が溢れる。

「だめだ・・・女神様、命をかけるのは俺じゃないんですか?こんなの嫌だ!」

優希が叫んだ瞬間、眩しい光が優希の体から放たれる。

その光がクロード達へと注がれる塊を消し、王妃達の元へと届く。

「何だ、この光は・・・どこに、そんな力が・・・」

光が王妃と男を捉えると、炎に変わる。

断末魔の様な2人の叫び声が上がると、炎は一気に2人の体を燃え尽くし、跡形もなく消えた。そして、その光は今度はクロード達を包む。

それは、以前優希がかけてくれた治癒魔法の暖かさだった。

光が体を包み、血が流れている所ではキラキラと瞬く。

すると血が止まり、傷が跡形なく消える。

それと同時に部屋にマルクが飛び込んできて叫ぶ。

「王子!これは一体・・・外の輩も消えて、怪我した者も治りました」

そう伝えた瞬間、光は消え、優希の体が宙に舞う。

優希の体からキラキラした光が抜け出ていく。

しばらくすると、ゆっくりと地面に体が着いた。


クロードが優希の体を抱き抱えると、優希がゆっくりと目を開ける。

「クロードさん、美久さんを、彼女をここへ・・・」

言われるがまま、美久を呼び寄せると優希のそばへ座らせた。

「美久さん、女神さんが元の世界へ帰してくれるそうです」

「本当ですか!?」

「はい・・もうすぐ体が光るはずです。その時に家族を思い浮かべてください。そしたらきっと元の世界へ帰れます」

優希の言葉に嗚咽を漏らし美久は涙を流す。

優希はその様子を見ながら微笑み、今度はクロードへ声をかける。

「クロードさん、ごめんなさい・・・」

「何を謝っているのだ?」

「俺、もうすぐ死んじゃうそうです」

「なっ・・・」

優希の言葉に、周りが言葉を無くし固まる。

「一応、俺も元の世界に戻すそうなんですが、それまで体力が保つかわからないそうです」

「そんな・・・」

震える手でクロードが優希の頬撫でる。優希はその手に頬を擦り寄せる。

「俺は残りたいって言ったんですが、このままここに残っても治療法がないここでは、死を待つだけだと・・・。それよりは少しでも可能性に賭けて、元の世界に戻った方がいいと・・・」

「優希・・・私はどちらも嫌だ・・・ここで一緒に暮らすと言ったではないか」

涙ながらに訴えるクロードに、優希はニコリと微笑む。

「泣かないで。約束を守れなくてごめんなさい。クロードさん、寂しく暮らしてた俺をそばに置いてくれてありがとう。家族をくれてありがとう」

だんだんか細くなる優希の声にクロードは項垂れ、嗚咽を漏らす。

「モーリスさん」

「・・・なんだ?」

「クロードさんをお願いします。それから、王様に約束を守るように言ってください。大丈夫、あの男が言ってました。貴方達家族は絆が強くて、なかなか手が出せなかったと。だから、元に戻れます」

そう言ってゆっくりと親指を立てると、優希の体が光始める。

そして、そばにいた美久の体も同時に光始めた。それは別れの合図だった。

「優希・・・優希・・・」

クロードが優希の体を手放すまいと強く抱きしめる。

それを見たモーリスがクロードの肩に手をかける。

「生きる可能性に賭けるんだ。生きてれば、きっと会える」

その言葉に頷きながら、優希に囁く。

「必ず生きのびろ。帰るまで気をしっかり保つんだぞ。優希、愛してる」

もう返事もできない優希はパクパクと口を動かし、俺も愛してますと伝える。

クロードは優しく優希のおでこにキスをした。

その瞬間、光の砂のようにサラサラと優希の体は消えていった。

クロードは声を漏らし泣き続けた。

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