第32話 正体
「ほう・・・やはり、あの時に加護を受けていたのか」
優希は体を縄で縛られ、部屋から連れ出されていた。
そして、乱暴に座らされ、男に髪の毛を掴まれながら水晶の前に顔を近づけさせられていた。その水晶の光を眺めながら男は感嘆の声をあげる。
「何が目的だ!?」
優希の言葉にふんと鼻で笑い、耳元に顔を近づける。
「この世界を支配する」
その言葉に優希はそうはさせないと男を睨む。
男はニヤリと笑い、優希を突き飛ばすように後ろへ放り投げる。
「お前の意志は関係ない。これを飲めば俺の手のまま動く事になる」
そういいながら、手に持っていた小瓶を見せると優希を嘲笑う。
優希は呪文を唱えようとするが声が出ない。その様子を見た男は自分の首を指差す。
「お前につけたその首輪、それが魔法を使おうとすると声が出なくなる仕組みになっている。お前が暴れると流石に俺達でも勝てないからな」
「お前達は何者だ?なぜ、こんな事をする?」
男の意識を小瓶から逸らそうと優希は尋ねた。
「俺達は・・・そうだな。闇魔法の組織とでも言っておこう。俺達の主人はわがままでな。こんな緩い世界はつまらんといい出して、まずはこの世界で大きなこの国をもらう事にしたんだ。あからさまに奪うのでは、つまらないからゆっくり攻める事にしたんだが、色々予定外の事が起きて、より力を得るために召喚したのだ」
「予定外の事?」
優希の聞き返しに、少し考えた素振りを見せた男だったが、そのうち意識を無くすからと優希の問いに答えた。
「ここの王子2人が思ったより魔力がデカくてな。攻め込むには都合が悪かったのだ。まだ小さいとは言え、暴走する可能性もあったからな。それに、あの家族は絆が強かった」
男が言っている王子が、クロードとモーリスの事を指している事は明らかだったが、家族の絆が強かったという言葉に優希は安堵した。
この件が済めばきっと元の仲がいい家族に戻れる・・・それが、優希にとっては嬉しかったからだ。
「だが、切り離したはずの絆が何故か切れない。それも、誤算だった。それに、召喚してみたものの、大して魔力が上がらない女が現れて、訓練を重ねたもののパッとした成果も出ずに、この先、女の使い道をどうしようか悩んでいたところだ。召喚にも時間と手間がかかるからな。それがどうだ、女はハズレでお前という本物が現れた。運がいいと思わないか?」
男のハズレと言う言葉が優希の怒りに触れた。
「勝手に呼び出しといて、ハズレなんて言葉を使うな!俺達は都合よく使える道具じゃない!彼女も俺も訳がわからないまま、ここで必死に生きてきたんだ。彼女には待っている家族がいる。元の世界へ帰せ!」
荒げる優希の声をものとはせず、鼻で笑うと帰る方法はないと冷たく言い放った。
「帰れなければ、ここで死ぬまでよ」
美久の叫び声に振り向くと、呪文を唱え大きな炎をあげた。
「美久さん、ダメだ。やめろっ」
「いいえ、止めても無駄よ。帰れないとわかった以上、もうここには居たくない」
「わかってる。俺と一緒に行こう。死んではダメだ!諦めるな!」
優希の言葉に、美久は涙を流し首を振る。
「辛いの。私は17でここに来た。ずっとここで辛い目に遭いながら、いつか家族の元に帰れると信じて耐えてきた。母や父に会いたい。姉や弟に会いたい。でも、それが叶わないのなら、この世界で生きていたくない」
涙ながらに訴える美久にかける言葉が見つからない。
それでも何とか止めようと、体を起こし、美久のそばに駆け寄る。
その瞬間、炎が男をめがけて放たれる。
優希の横をかすめて放たれた塊は男へと一直線に向かうが、男はニヤリと笑い、その炎を跳ね返した。
炎は優希を避けるように角度を変えて美久へと向かう。
優希は声を捻り出すようにカラカラな声を出しながら呪文を唱える。
すると小さな風の塊ができ、炎へと向かい、体当たりするように当たると炎が向きを変え、壁に当たった。
美久はガタガタと体を震わせ、その場にしゃがみ込む。優希は咳き込みながら美玖へ視線を向ける。
「さすがだな。首輪をしていても小さいとは言え、魔法が使えるとは・・・。さて、余興は終わりだ。そんなに死にたければ、事が終わったら望みを叶えてやろう。先にお前だ」
男はズカズカと優希に歩み寄り、髪を鷲掴みして顔を上に向かせる。
「何をする気だ・・・?」
「これを飲んでもらうだけさ」
そう言うと片手で小瓶の蓋を開け、優希の口を開かせる。
「優希さん、それを飲んではダメっ!」
美久の叫び声が聞こえるが、無理やり開かされた口に液体を注ぎ込まれる。
その後、口を抑え込まれ、飲むまいと含んでいた液体をゴクンと飲み込んでしまった。
「優希!」
ドアが弾き飛んだかと思ったら、クロードの声が聞こえ、モーリスを先頭に何人もの騎士が雪崩れ込む。
クロードの声に視線だけをやり、優希は声を上げる。
「クロードさん!美久さんを、彼女を保護してください!」
優希の言葉に室内を見渡すと、部屋の端にガタガタと震えながら、女性が立っていた。モーリスはマルクに保護するように伝え、視線を男に向ける。
「これはお早い到着で。ですが、少し遅かったようですな」
そう言うと髪を掴んだまま、優希の顔をクロード達に向ける。
優希の目は虚ろぎ、体は力が抜けたようにぐったりとしていた。
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