第31話 再び・・・
「うわぁ、マジでやばい」
「お前はさっきから何を言っているんだ?」
開かれたドアの先の神秘的な光景に優希は歓喜の声を漏らすが、隣でモーリスが冷たい言葉を浴びせる。
「さぁ、優希様、あの目の前の大きな像の側まで行って、祈りを捧げましょう」
大神官の言葉に促され足を踏み入れる。
「優希、ここで待っているからな」
クロードの言葉に優希は振り向き、親指を立てる。
するとクロードも真似して親指を立てた。
ゆっくりとドアが閉まり、両脇の噴水の間に敷かれた大理石の様な道の上を、1人歩いていく。
目の前には、大きな女神の様な銅像が立っていた。
優希はそこに膝を立てて座り、欧米式でいいのかと迷いながら、指を重ね祈る。
「女神様、俺に力を下さい」
そう言い終えると、優希の周りに温かい空気が流れた。
その温かさに目を開けると、その空気がキラキラと光り優希の体を包んだ。
神秘的な光景からなのか、温かさからくる安心からなのか、優希の鼓動は早くなる。
すると耳元で声が聞こえた。
(闇を取り払え。それがお前の役目だ。そうすれば真実へと辿り着く。ただ、それには命をかけなくてはいけない。その覚悟はあるか?)
その言葉に、優希は迷いもなくありますと答えた。
(ならば、私の加護を与えよう)
声が途切れると、キラキラした光が優希の体の中に入って来て、心地良い感覚が優希に力を沸かせていく。
光が全て体の中に入ると、別の方向から鈍い音と共に、声が聞こえた。
「やはり、お前か・・・」
振り返ると大司祭が頭から血を流し、うずくまっていた。
その声の持ち主は副神官だと紹介された男だった。
「クロードさん!」
優希はすかさず大声でクロードの名を呼ぶが、いつの間にか男は目の前にまで近寄っていた。
優希の声にすぐドアは開かれたが、すでに優希は男の手の中にいた。
「優希!」
慌ててクロードが近寄るも、男は呪文を唱えクロード達の目の前に氷の壁を作り上げる。
「こいつは元々我々の物だ。連れて行く」
そういうとまた呪文を唱え、手に持っていた石を投げつける。
するとそこには空気の歪みみたいな空間ができた。
ゆっくりと優希達の姿が歪みに体が吸い込まれる。
「クロードさん!」
優希は手を翳し、ブレスをゆらゆらと揺らす。一瞬クロードは何の事かわからなかったが、ブレスをもらった日に優希言っていた言葉を思い出し頷くと、優希は微笑みながら姿を消した。
「んっ・・・ここは・・・?」
「目を覚まされましたか?」
暗がりの中聞こえた声に、目を凝らし見つめると黒髪のロング、黒い目をした女性の姿が現れる。
「君は・・・」
「私は貴方と同じ異世界人です」
綺麗な容姿の女性に一瞬気を取られるが、その言葉に我に返る。
「君がそうか・・・。俺は優希、日野優希。君は?」
「私は柳 美久。あなたが私と一緒に召喚された異世界人?」
「あぁ。そうみたいだ」
「あなた・・・今まで、ずっと王宮に住んでたの?」
少し棘のある言い方が気になったが、優希は笑顔で答えた。
「いや、俺、ずっと森の中で1人で5年も住んでた。王宮はまだ半年も住んでない」
「5年も森の中で?」
「そう。偶然見つけた小屋の中で、1人で住んでた。そこに、たまたま持ち主のクロードさんが訪ねてきて、それが王宮の人だったから、今はそこでお世話になってる」
王子という事はあえて伏せたまま、美久に答えた。
すると少し沈黙の後、美久は口を開く。
「私はここでずっと訓練みたいのを受けさせられていたの。あまり、いい生活ではなかったわ。ねぇ、私達、元の世界に帰れるの?私、家族に会いたい・・・」
言葉を詰まらせ、嗚咽を漏らす美久の肩に優希はそっと手を置く。
「ごめん。俺にもまだ帰る方法がわからないんだ。でも、君の存在を知ってから助けたいと思っていた。一緒にここを出よう。王宮にいる人達も君を保護してくれると約束してくれている。王宮にいる人達は皆、優しい。そこで暮らしながら帰る方法を見つけるんだ」
美久は、優希の言葉にさらに嗚咽を漏らし、ここから逃げたいと懇願する。
その言葉を聞いて、優希はブレスを外し、内側にある石に向かって呪文も唱える。
その呪文に反応して、石が小さく光り出す。
「それは?」
涙を拭いながら美久が訪ねると、優希はニカっと笑い、俺が考えた追跡装置と答えた。
実はブレスを作った際に、何かあった時の為にとブレスの内側に小さな魔法石を埋め込んでいた。
店主に相談した時に、高度な魔法だが、魔法石と呪文があれば位置を知らせる事ができると教えてもらい、優希は密かに調べていた。
そして、正確には表せないが方角を示す光と、近づくと点滅する魔法がある事がわかった。
それを試行錯誤で作り、魔力を込めた魔法石をブレスにはめていたのだ。
クロードには、1人で歩き回る事はないが、優希はまだこの世界を知らないので迷子になった時用だと伝え、説明していたのだ。
クロードはあの時、それを思い出していた。
「大丈夫、きっと助けに来てくれる。それまで、俺たちは時間稼ぎをするんだ」
そう言って、美久を励ました。
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