第29話 確信

男が去ってから、不審者が出た事を理由に安全面を考え、お披露目が早々とお開きになった。

王宮の騎士達があちこちに配備され、その間を不安な面持ちで貴族達が帰路へ着く為に次々と馬車に乗り込んで行く。

優希達は会議をする為に別部屋へと足速に向かう。

ドアを開けると、すでに王とモーリス、大司祭に側には騎士が2人立っていた。

それぞれ椅子に腰を下ろすと王が口を開く。

「こんなに早く姿を表すとは・・・。これから先は、第一騎士団長のラルクと第二騎士団長のヨルを引き入れ作戦を立てていく。王宮に忍び込んだ上に、堂々と皇族に楯突いたのだ。剣ではなく、魔法にだけ長けているのであれば、これは我々だけでは太刀打ちできぬ」

こめかみを抑えながら王がため息を吐く。事前に騎士団長には説明していたのか、騎士達も重々しい雰囲気を出している。

第一騎士団長は主に王宮、皇族の護衛を仕事とする。第二は第一の援護と王都全体を監視する役割だ。この2人がそうと言う事は王都全体に、主に王宮を全体に警備が強化されると言う事だ。

「狙いは優希だけではないと言う事ですか?」

クロードが重々しい雰囲気の中、口を開く。すると、モーリスがそうだと答えた。

「一番の狙いはそいつだ。だが、あの堂々とした態度を見ると、そいつを使って何かを始めるやも知れない」

「我々がいち早く気付いたのは、その者の魔力の大きさでした。その力を持ちながら、更に上を行く優希様を引きいれる・・・これが、何を示すのか・・・」

うつむきながら大司祭がボソボソと呟く。

「早急に裏を取るようにしなくてはいけません。王宮の外はヨルに指揮をとってもらい、我が第一は王宮の警護と潜り込んでいる者が居ないか調べます」

ラルクは王に向かい言葉を告げると、ヨルと顔を見合わせる。

すると、今まで黙っていた優希が口を開いた。


「大司祭様、俺の魔法力を上げるには一度神殿に伺った方が良いでしょうか?」

その言葉に周りの皆が目を開き、優希を見る。

「優希、一体何を・・・」

不安げに優希を見つめるクロードが声をかけるが、優希はクロードの手を取り握りしめる。

「二つ確信が持てました。一つは、俺には本来役割があったという事です。それがあの男の元で、きっと悪い事の手伝いをさせられるという事です。そして、もう一つは俺の巻き添えになった人が捉えられていると言う事です。俺はその人を助けたい」

「それは危険だ!」

優希の提案にクロードが声を荒げる。優希は嗜めるように握った手を摩る。

「クロードさん、俺、よく本の話をしますよね?その時に、別の世界に来る場合はそれぞれ役目があり、それが使命を全うする事や、復讐だったり、弱気立場から逆転劇を繰り広げたりして生きていくのだと。俺はそれをやります。悪役の為に召喚されたけど、役目を俺の力で変えるんです」

「どう言うことだ?」

モーリスが眉を顰めて優希に問う。クロードは優希の言葉が理解できているのか、だめだとしきりに首を振る。

「俺は今でもクロードさんを幸せにする事が役目だと思ってます。だからこそ、あの男達と立ち向かう為にもっと力を蓄えなくてはいけません。あちらが魔法に長けているのであれば、最終的に俺が対立しなくてはいけないからです。本来の役目が現れたからこそ、この世界に残れるかも知れないと言う可能性も見えてきました。俺はここでクロードさんとずっと暮らしたい。クロードさんを心から愛してるんです。だから、俺、戦います」

優希の真剣な顔と言葉に誰もが口を閉ざす。

クロードだけは握りしめた手を額に当て、ただ静かに涙していた。

初めて優希の口から愛していると、ずっと一緒にいたいと望んでいた言葉をかけられたのに、失うかも知れない可能性がクロードの胸を締め付ける。

優希はクロードの頭を優しく撫でながら、言葉をつなげる。

「それと囚われている俺と同じ世界の人間。その人を助けて、帰れる時まで保護したいんです。俺は今まで1人で生きてきて寂しい思いをしましたが、今はこうして皆さんと出会えて幸せなんです。でも、その人は必ずしも召喚されたからと言って、いい境遇で過ごしているとは限らないんです。ましては、俺が現れた事で酷い目に遭ってるかも知れない。俺には親はいないし、戻っても1人だけど、その人には家族や待っている人がいるかも知れないんです。だから、保護して無事に元の世界に帰してあげたいんです」

「・・・優希様、優希様の想いしかと受け止めました。それならば、一度神殿にいらして祈りを捧げて下さい。何か神託があるかも知れません」

大司祭は優希の目を真っ直ぐに見つめ、手を差し伸べる。優希は笑顔でその手を握る。

「俺が、クロードさんを、王様やモーリスさん、この国を幸せにします」

優希は親指をたて、ニカっと笑った。

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