第28話 怪しい奴
お披露目が始まってから、クロード達に貴族が群がる。
モーリスから来賓予定の貴族だけ覚える様にと、似顔絵付きの書類を渡されていたので、どうにか挨拶ができた。
優希は顔を覚えただけだが、クロードは完璧だったのでそこはお任せで、優希は隣で相槌をしながら貴族観察をしていた。
この世界に来て初めて見る本物の貴族、それもあってか優希は貴族の格好や身振りに興味津々だ。
だが、いつまでも途切れない挨拶にすぐに飽きてしまい、クロードの服の裾を引っ張ると、それを察してか、クロードは失礼するとお辞儀し、優希を連れてテラスへと出た。
「クロードさん、俺、限界です。お腹も空きました」
テラスへ出るなり、その場に座り込み愚痴をこぼす。
クロードは優希を支え椅子に座らせると、一度ドアを開け使用人に何かを頼むと、すぐに優希の隣に腰を下ろした。
「今、何か食べる物と飲み物を持ってくる様に頼んだ。ここで少し休みながら食事をしよう」
そう言ってクロードは椅子の背もたれにもたれかかる。優希同様、疲労困憊の顔だ。しばらくして、綺麗に盛られた皿が幾つかテーブルに並べられる。
飲み物はクロードが気遣い、果実のジュースだった。
「俺、お酒が飲みたかったです」
頬を膨らまし少し拗ねると、クロードが優希の手にグラスを持たせ、答える。
「いろいろ落ち着いたら、2人で飲めばいい。お酒は初めてだろう?ここで、酔ってしまっては元も子もないからな」
嗜めるクロードにそうだったと返事をし、気を取り直して食事につく。
「ここにいたのか」
テラスのドアを開け、モーリスが入ってくる。ズカズカと歩いてきては、2人の間に腰を下ろす。
「モーリス様も食べますか?」
優希は切られたお肉をフォークに刺し、口を開けと言わんばかりにモーリスの口元へやる。モーリスは露骨に嫌そうな顔をして、顔を背ける。
「いらん。食べるとしても自分で食べるから、結構だ」
「なら優希、私の口にくれ」
すかさずクロードが口を挟み、あーっと口を開ける。
優希はニコニコしながら、クロードの口へお肉を運んだ。
「全くお前らは・・・」
呆れた顔で2人を見るモーリスに、優希は口をもぐもぐさせながら睨む。
「いいじゃないですか。俺達はもう周知された婚約者なんですから。それより、モーリスさん、クロードさんが忍者の服と魔法使いの服を買ってくれたんです。今度、お披露目しますね。きっとかっこよさがわかるはずです」
親指を立てながら自慢げに話す優希に、モーリスは冷たい言葉を投げかける。
「あの服を作ったのか・・・何がかっこいいのか・・・見なくてもわかる」
「見てみないとわからないじゃ無いですか!」
「そうだぞ。優希は何を着てもかっこいい」
助け舟を出すように横からクロードが優希を誉める。
優希は嬉しそうにクロードを見ながらクロードの手を掴み、お揃いのバングルをモーリスに見せびらかす。
「見て下さい。優しいクロードさんへお礼で買いました。クロードさんが付けてる編み紐は俺のお手製です」
横から垂れる様に結われたクロードの髪の結び目を撫でる。
「あ!これは俺の部屋の不用品を売ったお金で買いましたから、ご心配せずに!」
優希の言葉にモーリスが目を開く。
「お前!国の装飾品を売ったのか!?」
「クロードさんからは許可貰いました。しょうがないじゃないですか。モーリスさん達がケチってクロードさんにお金あげないから、俺とクロードさんの部屋の不用品を売りました。それで使用人達の物や備品を買ったんです。その残りをお小遣いでもらったんです」
「ケチだと!?貴様、ずっと思っていたが、俺はこの国の王子だぞ!無礼すぎる!」
「えー・・俺はこの世界の人間じゃ無いから、崇拝はしません。それに、もう、家族の様な物じゃ無いですか」
「き、貴様・・・」
怒りでワナワナしているモーリスに、クロードはハラハラしながら2人を見つめるが、ふっと何かの気配に気づき、静かにするようにと手をかざした。
すると、モーリスも何かに気付き、腰にある剣へと手を伸ばし、身構える。
「そこにいるのは誰だ?」
低い声でモーリスが尋ねると、テラスの飾られていたいくつかの背のある植木から、フードを深く被った男が現れた。
その姿にモーリスとクロードは立ち上がり、優希を背にするように立ちはだかる。
「そいつは異世界人か?」
フードを被った男がクロード達に問いかける。
「答える義理はない。お前こそ、何者だ?」
低い声でクロードが答えると、男はふっふっと不気味な声で笑った。
「本物という訳か。ならばそいつは元々は我達の物。返していただこう」
男がそういうと手の平から炎を出す。すかさずモーリスが呪文を唱え、抜いた剣に冷気を纏わせる。クロードも剣を抜き呪文を唱え始める。
「クロード様!モーリス様!」
何かを感じ取ったのか、大司祭と護衛が数人入ってくる。
男は舌打ちをし、マントで全体を隠し、テラスから飛び降りようと足をかけた。
「逃すか!」
クロードが剣をかざしながら男に近寄ると、男はクロードに向け炎を放つ。
優希は咄嗟に呪文を唱えるとクロードの前に氷の壁ができ、炎を弾き返した。
それを見た男は一瞬驚いた表情をしたが、すぐに高笑いする。
そして、テラスの外へ飛び出すと男の体を風の塊が包み、まるで宙を浮いているような姿になる。
「必ず我らの元に迎え入れる。もう一つと引き換えに・・・」
そう言い残すと竜巻の様な突風が巻き、男の姿は消えた。
もう一つと引き換え・・・その言葉が優希の不安を駆り立てた。
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