第26話 わだかまり
「ゆ、優希、そんなに怒らないでくれないか?」
頬を膨らませ顔を横に向け座る優希の隣で、クロードは慌てふためく。
「全く、尻に敷かれおって・・・」
その様子を呆れた顔で睨むモーリスがいた。
今日は初めて三人で訓練をする日で、鍛錬場で午前中ずっと優希に魔法の手解きをし、合間にクロードとモーリスが剣を交わしていた。
クロードとモーリスの様子を見ながら、もう少しだなと優希は微笑む。
訓練が終わり、それぞれ邸宅に戻りお風呂と昼食をとり、まったりとクロードと午後のひと時を満喫していたら、再びモーリスがクロード邸に現れた。
お披露目の衣装を作るとかで、デザイナーと商人を数人引き連れてきたのだ。
「お前の割り当て金では作れないだろ?貸しにしとくから、好きな様にオーダーしろ。それから、まだ準備中だが、こいつの分の割り当て金を計算中だ。一応、王族の嫁となるわけだから割当金を配当する事になっている」
「本当ですか!良かったですね、クロードさん」
モーリスの言葉にいち早く優希は喜びの声を上げるが、クロードの表情は険しかった。
その表情が少し気になりはしたものの、優希は密かに考えていたという衣装の図案を部屋から持ってくる。
「これは何だ・・・?」
優希がテーブルの上に広げた絵を見て、周りのみんなが眉を潜める。
「沢山あったんだけど、この2枚に絞ったんです。俺の一押しはコレです」
一枚の紙を掴みみんなに見せると、他の者達はさらに眉をひそめる。
「何だ、それは?」
「はい。忍者です」
そう言って微笑む優希は自信ありげに説明を始める。そこには昔ながらの忍者の姿になった優希の姿が描かれていた。
「却下だ」
冷たい声でモーリスが放つ。その声に優希はあからさまに不機嫌な顔をする。
「やっぱり日本の忍者のかっこよさがわからないんですね!モーリスさん、ダサいです」
「ダサっ・・・貴様!」
優希の放った一言でモーリスが立ち上がると、クロードが優希を庇うように身を乗り出す。
「クロードさん!クロードさんは、わかってくれますよね?」
突然の火の粉にクロードが苦笑いをする。
「あ、あぁ。かっこいいと思うぞ。ただな・・・」
「ただ、何ですか?」
「お披露目には向かないかと・・・そ、それに、忍者は影の護衛なんだろう?ならば、その格好を見られてはいけないのでは?」
必死に言葉を選び優希に伝えると、優希は相変わらず頬を膨らませながら解りましたと答え、それならばともう一枚の紙を手に取る。
「じゃあ、これはどうですか?魔法使いです」
自信満々で見せたその紙には長いローブにマントを纏った、いかにもスタイルの優希の姿が描かれていた。
「ダメだ」
落ち着きを取り戻し、腰を下ろしたモーリスがまた冷たい口調で放つ。
「何でですか!?これ、かっこ良く無いですか!?」
怒りが混じった声で優希が声を上げる。すると、モーリスは深くため息をつく。
「いいか?お前はこいつの護衛であり、婚約者として紹介される。そんな変な格好ではこいつが恥をかくぞ」
「変な格好って何ですか!?ひどい!」
「わ、私は優希の希望を優先しても良いぞ」
「ダメだ。騎士らしさと、優雅さを備えなくていけない。もういい。衣装はデザイナーに決めてもらう。時間の無駄だ」
「何でもいいって言ったのに!」
ブツブツと文句が止まらない優希をクロードが宥めていた。
デザイナーと打ち合わせが終わり、寸法を測り終えた優希がクロードを小突く。
クロードはその合図にたじろぎながら、デザイナー達を下がらせモーリスに話があると告げる。優希は親指を立て、大丈夫と合図をするとそっと部屋を出た。
互いに椅子に腰を下ろすと、意を決した様にクロードが頭を下げる。
「・・・・なんのつもりだ」
「そ、その、今まで1人で荷物を背を背負わせてすまなかった。母上の事も・・・。これからは私も努力すると誓う。父が許してくれるかはまだわからないが、モーリスとはわだかまりを解きたいと思っている。本当にすまなかった」
「・・・・」
「ずっと謝りたかった。ずっと申し訳ないと思っていたが、私は部屋に篭って随分臆病になってしまった。それ以前に、私自身が傷付きたくないと思ってしまったのだ。本当に私は愚かな臆病者だ」
「あいつの悪知恵か?」
「優希は私の背中を押しれくれただけだ。モーリスは私の事を憎んで無いはずだから、兄である私から許しを乞えと。一方的な謝罪は自己満足になるから、きちんと謝罪して許しを乞い、受け入れて貰うために私から歩み寄り努力をするのだと・・・モーリス、私は昔の様に仲良くしたい。そして、一緒に母の事などを語り合いたい。私達しか知らない思い出もあるのだ。特にあの森で過ごした思い出は、私とモーリス、そして母しか知らない。一緒に母を思い、偲びたいのだ」
「・・・・謝罪は受け入れよう。だが、これからのことは何とも言えん。すでに俺達はそれぞれの立場に分かれたんだ。それぞれの立場で守る物も、やらなければならない事もある。どうにもならない溝だ」
「わかっている。私には立場などないも同然だが、モーリスには私が課せた立場がある。だが、私はこれからは堂々とモーリスの支援に回るつもりだ。兄として今からでもお前を守りたい」
「・・・お前に守られるほど弱くはない。チッ、もう行く」
モーリスはスッと立ち上がり、ドアへと足速に向かうと、取っ手に手を掛けながら振り向く。
「披露宴、盛大にやるぞ」
その言葉にクロードは笑みを浮かべる。モーリスもニヤッと笑い、ドアを引くと優希が耳を澄ましていたのか、倒れ込んできた。
「・・・貴様・・・」
「えへっ・・・まぁ、結果オーライでしょ!」
そう言って笑いながら、両手の親指を立てた。
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