第25話 埋められない空白

部屋に戻るなり、クロードは優希に詰め寄る。

「何故、こんなにも優希は無鉄砲なのだ?いや、その行動力も魅力ではあるが、少し無鉄砲すぎないか?」

優希はキョトンとした顔でクロードを見つめる。

それから、長椅子に腰を下ろし、隣をポンポンと叩くと、クロードはゆっくりと歩みより腰を下ろした。

「クロードさん、俺と結婚は嫌ですか?」

「そ、それは断じてない。むしろ私なんかと結婚してくれるなら本望だ」

「なら、いいじゃないですか。俺はこれが、クロードさんと一緒に居れる一番の方法だと思ったんです」

「だが・・・いや、すまない。私が力がなく、情けないせいで何もかもを優希に判断させてしまった。結婚の事も、囮の事も・・・」

俯きながら話すクロードに、優希は顔を上げるように伝える。

「まだ、自分の事を情けないと思ってるんですか?俺が何度言えば、そうじゃ無いって信じてくれるんですか?」

「しかし・・・私はまだまだ子供だな・・・優希は本当に大人だ」

落ち込んだ表情のクロードに優希はそんな事はないと告げ、話だす。


「クロードさん、俺の世界では7歳から15歳まで国で定めた学校に通うんです」

突然の何の話かと疑問に思いながら、優希の話に耳を傾ける。

「俺の国では、身分関係なく平等に子供が学ぶ機会が与えられるんです。その学校が終わると余程の事情がない限り、次の学校に進みます。その学校では気持ち的にもそうですが、大人になる準備をしていくんです。それまでの学校活動も友人関係も大幅に増えて、周りの大人に関わりながら、将来を見据えて社会に出る準備をするんです。将来を見据えて、またその先の学校に進む人もいますが、学問の道に進むのか、職に就くのかも含めて、16から18の間に通う学校で色々学びながら決めていくんです」

優希はそう話しながら、俯く。そして、ぽつりと呟いた。

「俺はその大事な期間を得られなかった・・・」

寂しそうな優希の声にクロードは堪らず、優希を引き寄せ抱きしめる。

「だから、俺には常識的な事がわからないんです。感情をコントロールして人と付き合う事も俺には難しいです。誰も教えてくれる人がいなかったから・・・俺は年齢的にも体も大人だけど、中身は子供なんです。だから、少し無鉄砲な所は許してください。もし、ダメな時はクロードさんが隣で怒って下さい」

「優希、そんな事はない。少なくても引きこもっていた私より充分大人だ。優希に出会うまでは笑い方も忘れていたくらいだ」

「ふふっ。じゃあ、子供同士お似合いですね。これから2人で大人になって行きましょう」

「あぁ。そうだな・・」

優希の笑みに、クロードも笑みが溢れる。そして、クロードの中で何かが変わろうとしていた。


翌日、王から伝達があり、優希の存在は国中に広まる事となった。

話が広まる速さが早かったのは、「第一王子の専属護衛を婚約者として迎え入れる」との文言があったからだ。

今まで呪われし者として幽閉されていた王子が、王命で専属護衛を付け、更にその護衛が男であり婚約者となれば話題に上がる事は間違いなかった。

そして、その婚約者は魔法に優れていると付加されれば、注目度も上がる。

その話題に信憑性を持すために、一度だけお披露目の場を設ける事となった。

もう後には引けないとクロードが険しい表情を見せるが、当の本人である優希はあっけらかんとした表情で新聞を見ながらニヤニヤと笑っていた。

「ふふっ、クロードさん、これで晴れて堂々と恋人になれましたね」

そう言ってクロードに顔を向けると、クロードは顔を赤らめ、それでも嬉しそうに優希に抱きついてきた。

「あぁ。私も嬉しい。これで優希は私の物だ。私だけの優希だ。愛している。優希のそばで、優希を守り、愛し続ける」

「はい。俺も大好きです」

いつの間にかクロードは「ずっと」という言葉を使わなくなっていた。

その言葉は互いに悲しみを伴うからだ。

そして、優希がいまだに愛していると言い返してくれないのは、いつか離れてしまう時にクロードが悲しみすぎない様にと想ってくれているからだと悟っていた。

きっと優希から愛してると言われたら、帰って欲しくない気持ちが強くなり、互いに辛くなる。辛い気持ちを抱えたまま、どの位残されているかわからない時間を無駄にしたくない。

できるだけ笑って過ごせれば、離れた後に寂しくなっても優希の沢山の笑顔が支えになってくれる・・・そうクロードは信じていた。

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