第22話 優希の覚悟

「これは・・・」

「こんな事があるのか・・お前・・・何者だ?」

応接間にいた誰もが驚きの表情を浮かべ、言葉を詰まらせる。

優希は神官が持ってきた水晶に手を翳し、その水晶に次々と現れる色をぼんやりと見つめていた。

ここに来てから、優希の想像していた事に似たような説明を神官から受けた。

治癒魔法は聖女しか使えない能力で、あの日、優希が力を使ったことで協会に兆しが現れたとの事。

そして、それはクロードの邸宅から発せられていて、治癒魔法以外にも他の大きな力が発せられている事がわかった。

それを確かめる為に神官達は王様を通し、クロードの元にやって来たのだった。

「これは歴史上にない巨大な力です」

大司祭と名乗る老人が、沈黙の中、口を開く。

「この力はこの国の為に使うべきです。できることならば、協会にて身柄を預かりたい。この力を弱き者に与えてくださいませんか?」

次々と言葉を並べる大司祭に優希は口を紡ぐ。

「それより先に説明をしてくれないか?お前はどこの出で何者なのだ?これほどの多属性魔法と聖女にしか与えられない力を何故、男であるお前が持っているのだ?」

モーリスの言葉に、優希はゆっくりと口を開く。

「今は話せません。その前に王様に会わせてください」

「優希・・・」

突然の優希の申し出に周りが困惑する。

「今後の事は王様が決めるんですよね?それならば、王様に会わせてください。そこで全て話します」

沈黙の中、モーリスがわかったと告げる。

「ここ最近は体調がいいから、あまり長くは時間を取れないが謁見は可能だろう。明日にでも伺いを立ててみる」

その言葉に優希は一度、クロードの顔を見て手をぎゅっと握る。

クロードは優希の考えがわからず、不安な表情で優希を見つめるが、握られた手を強く握り返す。

その温もりを確認するとクロードへ微笑み、覚悟を決めたようにモーリスへ顔を向ける。


「これは俺からの条件です。その場にはもちろん大司祭様やモーリス様も同席して構わないです。ただし、そこにクロードさんの参加も許可してください。それでなければ俺は何も話しません。この事でクロードさんに火の粉がかかるのを、俺は望んでいません。俺はクロードさんを心から信頼し、尊敬しています。もし、強引に俺とクロードさんを引き離したり、クロードさんやこの邸宅の人達を傷付ける様な事があれば、俺は許しません。クロードさんを含め、この邸宅の人達は俺の家族なんです」

「優希・・・」

「俺の存在が脅威であり、邪魔であるのであれば、ここから消える事もできます。皆さんが言う魔法能力が俺に備わっているのであれば、俺には可能な事で逃げ果せる自信もあります。俺はいずれ・・・」

帰る人間だから・・・そう言いかけて口を紡ぐ。

クロードは優希が言いかけた言葉の続きを察して優希を抱きしめる。

そんなクロードに優しく大丈夫と囁き、モーリス達に言葉を続ける。

「俺はクロードさんと知り合って、孤独から救われ、居場所を、家族を持てたんです。クロードさんの側にいる事が俺の願いで、俺の幸せなんです」

優希の言葉に誰もが沈黙する。クロードだけは優希の言葉の意味を理解して目を潤ませる。

「・・・とにかく、謁見の手配をして連絡する。それまで、ここから一歩も外に出る事を禁ずる」

沈黙の中、口を開いたモーリスは立ち上がり部屋を出ていく。その後を大司祭やお付きの神官達が付いて部屋を出て行った。

残された優希とクロードは互いに抱きしめ合い、これから先の不安を互いの温もりで拭う様にしばらくの間動けずにいた。

その日の夕方、一通の封筒が邸宅に届き、明日の午後に王様との謁見が決まった。

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