第21話 間違えた!?

何日か手を繋いで過ごすという事を繰り返しているうちに、今度は逆にクロードが纏わりつく様になった。

暇さえあれば、ずっと優希の隣に座り、優希に抱き付いていた。

自分より大きな男がコアラの様にしがみ付く姿が、優希を悩ます。

(何なんだ、これは・・・俺はしがみ付く木か?重い・・・)

離れようと体をずらすと、ガッツリとホールドされるので、優希は早々と抵抗を諦めた。


安易に考えたくないと思っていたのに、しょぼくれるクロードを見ていたら、つい口が先に答えてしまった。

だが、決めたのなら応えていこうと決心したものの、毎日この状態が続くと恋人というより大きな子供を子守りしている気分になる。

言葉は少ないが、態度で愛情表現をするクロードに嬉しくもあり、不安もある。

終わりが見える先もだが、この世界がどういう世界なのかわからないからだ。

モブで行こうと決めていたのに、急に主人公級の恋人ポジション。

そして、頑なに多属性を隠す事、特に治癒力が絶対にバレる事はしていけないと、クロードか再三注意するからだ。

それが、どういう意味を持つのか、今まで読んできた本を思い返すと自然に理解出来てくる。

この力が波乱をもたらす事を・・・優希は自分の選択全てを思い返し、正解だったのか不安になる。

できれば、何事もなくクロードと過ごして、そして・・・別れたい。

どちらかが命を落とすような、全てを失うような展開になって欲しくない。

隣で優しく微笑むクロードの笑顔を奪いたく無い・・・。


「クロード王子!」

いつも冷静沈着なウィルが慌ただしく部屋に入ってくる。

その様子に何か良く無いことが起こったのではと優希は不安になる。

「どうした?」

「教会から大神官様がお見えです」

その言葉にクロードが眉を顰める。そして、すくっと立ち上がりウィルの元へと寄ると互いに何か耳打ちをしていた。

「ど、どうしたんですか?」

優希の戸惑う声に2人が振り向く。クロードは優希の側に寄り、また隣に腰を下ろし、優希の手を取ると口を開いた。

「優希、今、神官が来ている。恐らく先日の治癒魔法に関係しているだろう。私が対応してくるから、この部屋から出てるな。わかったな?」

神妙な面持ちと強い口調で見つめるクロードの表情から、優希は何かを悟り頷く。

すると、ドアを荒々しく開けモーリスが入ってくる。

「な、なんだ?勝手に入ってくるとは無礼だぞ」

「無礼ねぇ・・・」

相変わらず厳つい顔でクロードを睨みつける。そして、その視線は優希に向けられた。

「チッ、こいつだろ?全く面倒な奴を拾ったもんだ」

「やめろっ」

モーリスの口ぶりが優希の不安を確信に変えていく。

「おい、お前も神官に会うんだ」

「だめだ!」

クロードは立ち上がり、優希を後ろに隠すように優希の目の前に立つ。

モーリスはゆっくりとクロード達に近寄り、優希へと顔を近づける。

「モーリス!」

「もうバレてるんだ。お前1人で隠し通せるものじゃない。おい、お前。大人しく来ないとこいつが酷い目に遭うぞ」

「優希!話を聞くんじゃない!」

「でも、クロードさんが・・・」

「お前は今から神官達に色々と調べられる。その結果次第では、身柄は教会か王宮の本邸預かりとなる」

「だめだ!」

クロードはモーリスの腕を掴み、優希から遠ざけようと引っ張る。

その腕をモーリスは剥がそうとするが、クロードも力を込めて離さない。

しばらく睨み合った後、モーリスは大きなため息を付き、また優希へと視線を戻す。

「お前が出てこないと、こいつはお前を匿ったとして捕まる。あらぬ冤罪を被されてな」

「ど、どういう事ですか?」

「お前の力はもしかすると脅威になる恐れがある。そんなお前を匿っているとなると、何か企んでいるのでは無いかと思われるという事だ」

「私はそんな事は企んでいない!」

クロードの声にモーリスはまたため息を付き、クロードへと視線を向ける。

「お前はここにいて何も知らないだろうが、現王妃に王子が生まれた時点で後継者争いが始まっているんだ。そんな中にこんな奴が現れたら、どうなるのかわかるだろう?」

「私は父に嫌われている。故にここに幽閉された時点で後継者からは、外されているはずだ」

クロードの力が緩んだ隙にモーリスは腕を振り払い、人差し指をクロードの胸に突き立てる。

「いいか?世間には後継者扱いされなくても、呪われた子としてずっとここに居た奴がこんな奴を側に置く事で、王宮への復讐や後継者権を取り戻す為の対策だと思われるだろう」

クロードは俯いたままモーリスの話に耳を傾ける。

「そこでだ。たださえ、俺の存在が不愉快な王妃に取っては、名ばかりと言え、第一王子であるお前の存在を完全に取り潰す、絶好のチャンスだと思わないか?」

「あ、あの・・・」

不意に口を開いた優希に2人が視線を向ける。

「俺が、その神官様の取り調べを受け、何もやましい事がないと証明できれば、またクロードさんと暮らせますか?」

「優希・・・」

「言っただろう?お前の身柄は恐らく別に移る。だから、この先クロードと暮らす事は叶わない。だが、こちらの指示に従えば、クロードの身に火の粉は降りかからないはずだ」

「・・・俺、話してきます」

「優希!」

優希の言葉に、クロードが顔を歪める。

優希はクロードの手を取り、優しく微笑む。

「クロードさん、俺、クロードさんを守ると言ったでしょ?大丈夫です。俺、忍者になりますから。こんな事で俺達の時間を無駄にしません」

力強い優希の言葉に何も言えず、クロードは俯く。

「クロードさん、行きましょう。俺の側にいてくれますよね?」

「あぁ。側にいる・・・」

2人は手を繋ぎ、神官が待つ応接間へと向かう。

後ろからついてくるモーリスがポツリと呟いた言葉が優希の心に引っかかったが、今はこの目の前にある問題に向き合わなくてはとクロードの手を強く握った。

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