第19話 出ない答え
「ここにきて、いきなりBL展開か・・・」
優希は机に頬杖を付き、昨日の出来事を思い出す。
今日からダイニングで食事を取ることになっていたので、朝食は気まずくなかったのだが、いざ2人きりになると沈黙が続く。
たまたま今日は、クロードの剣の鍛錬の日だったので、気まずさに耐えれなかったのか、クロードは早々とコートを纏い、フードを深々と被って邸宅を出て行った。
「うーん・・・クロードさんにとって俺は、初めての友達だから勘違いしていると思うんだけどなぁ・・・」
1人でぶつぶつと呟きながら、目を閉じる。
「でも、人の気持ちを勝手に決めつけるのもなぁ・・・その人の気持ちは、その人の物だからなぁ・・・うーん・・・かと言って、受け入れるのも、断るのも難しいしなぁ」
同性同士の恋愛に特に偏見はないが、まだ、恋愛をした事ない優希にとっては未知の世界だった。
もし、本気でクロードが想ってくれているのなら、安易に考えたく無い。
それに、たとえ受け入れるとしても、いずれは離れなくてはいけないかも知れない未来がある。
そうなった時、2人とも苦しむのは目に見えている。
だけど、いつも優希を心配して優しく寄り添ってくれるクロードの気持ちも無下にしたくない。
恋かどうかは抜きにしても、クロードを支えたい、幸せにしたいと思う気持ちはある。
だから、断った事で互いに溝ができるのは嫌だ。
「どれが正解なんだろうか・・・」
頭を抱え、机に顔を置く。そして、そのまま寝てしまった・・・。
「ゆ、優希、部屋に入ってもいいか?」
ノックの音とともにクロードの声がして、優希は目が覚める。
辺りを見回すと窓の外は茜色に染まっていた。
返事がないのを心配したのか、もう一度ノック音が鳴る。
「ゆ、優希・・・?」
「あ!すみません。寝てました!入ってもいいですよ」
優希は慌ててドアに向かって声をかける。
するとクロードはゆっくりとドアを開け、部屋に入るが、いつまでも優希のそばに寄ろうとしなかった。
「クロードさん、どうしたんですか?」
「そ、その・・・怒っているのか?」
「はい?」
チラチラと優希の顔を見ながら、小さな声でクロードが問うが、質問の意味がわからず首を傾げる。
「ウィルが、今日は優希が部屋から出てこないと心配しててな。その、昨日、私が言った事で優希が怒っているのでは無いかと思って・・・」
確かに朝食後、クロードと別れてから部屋に篭り、頭を抱えていた。
そして、あまり使わない頭を使ったせいか、そのまま寝落ちしてしまったので部屋からは一歩も出ていなかった。
「昼食も取れないくらい不愉快だったか?」
その言葉に優希が小さなため息をつくと、クロードはビクッと体を震わせる。
「クロードさん、少し話をしましょう」
そう言って優希は立ち上がり、長椅子へと移動し腰を下ろすと、隣をトントンと叩いて手招きする。
クロードは辿々しい足取りで、優希の隣に腰を下ろした。
「俺は怒ってもないし、不愉快を感じてる訳でもないです」
「だが・・・」
「いろいろ考え事をしてたら眠ってしまっただけです」
「・・・私は、優希を疲れさせるほど困らせているのか?」
「違います」
「だが、私は男でもあるが、情けない、嫌われ者だ。そんな私に想いを伝えられたら不愉快だろう?」
俯きながら呟くクロードの顔を掴み、頬を両手でパチンと叩く。
いきなり叩かれてクロードは目を大きく開き驚く。
「俺がいつ、クロードさんの事を情けないといいましたか?」
「だが・・・」
「いいましたよね?俺が見ているクロードさんは、優しくてかっこよくて強い人だと。俺は見たものしか信じません。だから、俺が見ているクロードさんの姿は真実で、そんなクロードさんを俺は頼りにしているし、信じています」
「優希・・・」
「ここでは男同士の恋愛は禁止ですか?」
「わからないが、過去に側妃として男性がいた事はある」
「じゃあ、そこは問題ないですね。俺は、クロードさんの気持ちがまだ、本物かわからないんです。ただ、初めてできた友達に対する執着の様にも思えるし、第一、俺こそ、俺のどこがいいのかわかりません」
「そ、そんな事はないぞ。優希は誰より優しいし、自分をしっかり持っている強い男だ。それに・・・可愛い・・・」
最後の言葉に自分で言って、1人照れているクロードを見ながら、何故か笑いが込み上げてきた。
「俺が可愛いんですか?この世界の大人より小さいからですか?」
「いや、小さいのも可愛いが、大きな目も笑った顔も全部が可愛い」
「ふふっ、男に可愛いは無いでしょ?これでも俺は立派な大人の男です」
「そ、それはわかっている」
「クロードさん・・・俺はまだ、クロードさんを恋人として好きかどうかわかりません」
「・・・・」
「クロードさんは受け取るだけでいいといいましたが、それではクロードさんが辛いと思うんです。だけど、安易に受け入れる事はできません。色々理由はありますが、一番は俺達には先が見えているという事です」
優希の言葉に、クロードは顔を曇らせる。
優希は俯かせまいと頬を掴んだ手に少し力を込める。
「拒んでクロードさんと距離が空くのも嫌です。でも、どうしても付き纏う先の事を考えると辛いんです。俺もそうだけど、クロードさんはきっと俺の何倍も悲しむ事になる。それが嫌なんです」
「・・・・」
「クロードさん、それでも始めたいですか?」
「・・・優希?」
「どちらにせよ、互いに悲しむなら、それをわかっててもクロードさんが始めたいなら、俺はクロードさんのそばにいる事を選びます」
「優希・・・」
クロードの目から涙が溢れ出す。
そして、優希の頬を両手で包み、震える声で答えた。
「優希・・・私は始めたい。許されるのなら、このまま始めず後悔する未来より、未来がわかっている分、優希とのその瞬間を一つずつ大事な思い出に変えていきたい」
「・・・わかりました。じゃあ、一緒に沢山思い出を作りましょう」
優希はクロードの涙を拭いながら、優しく微笑む。
そして、優希から触れるだけのキスをすると、クロードは力強く優希を抱きしめた。
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