第18話 またまた急展開

「優希、何を書いているんだ?」

夕食後、そそくさと部屋に戻った優希はペンを取り出した。

机に向かい何かを一生懸命書き始めた優希に、クロードは声をかける。

クロードの部屋から優希の部屋へは一つの扉で繋がっている。

最初にクロードがこの部屋を案内したときは心底びっくりした。

繋がっている部屋を使うのは夫婦の部屋だと、漫画や小説の知識で知っていたからだ。

その事をクロードに伝えると、ここの世界でもそうだが、結婚の予定はないから心配いらないと即答された。

最初の頃は変に思われないかと心配したが、ここの使用人はとても優秀で変な顔一つせず接してくれた。

そのおかげか今は自由に行き来し、友達とルームシェアをしている感覚になっていた。

「クロードさん、俺、ここに来て今までの事を書き始めたんです。最初は文字を書く練習も兼ねてたんですが、今は、日記みたいな感じで毎日今日あった事を書いてるんです」

「そ、そうか。・・・食事での事も書いたのか?」

「もちろんです」

持っていたペンを置いてニヤリと笑う優希とは反対に、クロードは顔を赤らめため息をつく。


あれから起きた優希に、クロードは真剣な顔で治癒の魔法の事は内密にしないといけないと話し、怪我は急に治ると皆が不思議がるから、しばらく怪我しているフリをしようと提案した。

ダイニングに行くと、使用人が全員で出迎えてくれた。

皆、クロードの怪我を心配して声をかけてくれたが、クロードはつい身構え、小さい声で大丈夫だと答え早々と席についた。

怪我をしているクロードを気遣って、隣に座ったザックが肉を切る。それを見た優希は切り終わった皿を取り、フォークで肉を刺し、クロードに口を開けるように促した。

顔を赤らめ大丈夫だと言うクロードに、耳元で怪我のフリしなくちゃと囁き、ニコニコと笑みを浮かべる。

クロードは照れながら口を開き、優希に食べさせてもらう。

それを周りの使用人達が見守り微笑む。

クロードにご飯を食べさせながら、優希はみんなに声をかけて終始場を和ませていた。

「俺、持っていけるのかわからないけど、いつか帰る時がきたら、これを持って行きたいんです。これがあれば、きっと寂しくないはずです」

紙を撫でながら優希はポツリと呟く。

「俺、もう21だから、向こうに戻っても孤児院には戻れないんです」

「そうなのか?」

優希は寂しそうな笑顔を浮かべ頷き、俯きながら話を続けた。


「成人は20ですが、孤児院では保護して養わなければならない年齢は18までなんです。その後はほぼ強制的にそこを出され、独り立ちをしなくてはいけないんです。国の援助はあるけど、それも最初だけなので早急に自分で稼いで行かなくてはいけないんです」

「・・・・・」

「他の援助をもらって、学校に行きながら働く人もいるんですが、俺は勉強は得意じゃ無いからすぐに働くつもりでした。ここに来てから1人で生きていく事には自信がついたんですが、クロードさんと出会って毎日が楽しくて、ここに来てみんなと出会えて俺、すごく幸せです。でも、幸せだから元の世界に戻った時、一から1人で生きていく事に不安を感じるんです」

「優希・・・」

クロードは優希の側で膝をつき、膝に置かれた優希の手を取る。

「でも、これを持っていったらここでの事は夢なんかじゃ無いってわかるし、1人で過ごして来た事も書いてあるからきっと頑張れると思うんです」

優希はそう言い終えると顔をあげ、今度は明るい笑顔でクロードを見つめる。

「それまでに色んな事をやって、沢山の知識を覚えます。今日はザックさんに皮剥きを褒められたし、俺、意外と料理の才能があるかも」

ニッと白い歯を見せて笑う。優希がいつでも離れる準備を、1人で生きていく覚悟をしていたのかという事実を知らされ、クロードは胸が締め付けられる。

「優希、私も優希と出会えてとても幸せだ。今までは私も1人だった。1人だと思っていた。優希と出会えて笑う事もできた。光を浴びる事ができた。何より今日の食事会で1人ではないと教えてもらった。優希、君は私の光だ。生きる為に必要な道標であり、私の暗闇を照らしてくれる光だ。だから、優希を守る為にもずっと私の側にいてくれないか?」

「それは・・・」

「約束ができない事はわかっている。それでもそばにいると言ってほしい。優希が離れるという言葉を使う度に、辛くてたまらない。朝目覚めて優希がいなくなってしまっていたらと怖くなる。だから、毎日優希の側にいて、その瞬間を大事にしたい。優希、私は多分・・・いや、多分とかではない。私は優希を愛してる」

「・・・クロードさん?」

突然の告白に、一瞬何を言われたのかわからなくなる。

「優希、愛している。これからは私のそばにいて、私の気持ちを受け取ってくれないか?応えてくれとは言わない。私なんかが優希と恋仲になれるとは思っていない。だが、突然優希が消えてしまった時に、きっと私は気持ちを伝えなかった事を後悔するだろう。これは、私のわがままだ。だから、応えなくていい。ただ、私の想いだけは受け取ってくれないか?」

切実な目で見つめるクロードの表情に、優希は言葉を返せないでいた。

そして、少し時間をくださいと答え、その日はクロードを部屋に帰し、優希は早々とベットに入った。

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