第17話 秘密
「優希、そろそろ泣き止んでくれないか」
優希の涙を拭いながらクロードは優しく声をかける。
部屋に戻り、優希は手当の為にクロードのシャツを脱がせ、タオルで背中の傷口を抑える。タオルに滲む血を見つめながら、優希はまた涙を流していた。
「すまない。また情けない姿を見せてしまった」
「情けなくなんかない!どうして・・・どうして、クロードさんを傷つけるんですか?クロードさんは、本当に優しくていい人なのに・・・」
「優希・・・」
タオルを持つ手に、クロードは手を回し添える。
ノックの音が聞こえ、ウィルが包帯などを持って部屋に入ってくるのが見える。
「王子、優希様、薬を持ってきました」
「薬だけですか?お医者さんは来ないんですか?」
「それは・・・」
ウィルは俯き、薬の乗ったトレーを強く握りしめる。
「昔から私のところには医者は来ない。私は嫌われ者だから、母の命を奪った者だから、いつどうなっても構わないんだ」
「そんな・・・」
「モーリスも・・・あれは私の実の弟だ。昔は仲が良かったのだが、母が亡くなってからはあの態度だ。弟も母を愛していたからな。私が憎いんだろう」
「だからって・・・」
「私は父に追いやられてここに篭るしかなかったが、モーリスは本邸で後継者として1人頑張っているんだ。後から王宮に入った現王妃には王子と姫がいるからな。私の分まで1人で後継者から外れない様、重荷を背負っているんだ。私は・・・モーリスに対して申し訳なさでいっぱいだ・・・」
俯き悲しそうな声でクロードが呟く。
優希は鼻を啜り、クロードに寝そべるように促す。
急にどうしたのかと思いながら、クロードは言われた通りベットに寝そべる。
「俺・・・クロードさんに黙ってた事があります」
「な、なんだ?何を隠していたのだ?」
「ウィルさん、手伝ってもらえますか?」
ウィルに側に来るようにいい、抑えていたタオルを取る。
側に置いていた新しいタオルをウィルに持たせ、傷口に手をかざす。
「ウィルさんは俺が終わるまで、クロードさんの汗を拭ったりしてください。俺も人にするのは初めてなので、どんな症状が出るかわからないんです。だから、側でクロードさんを見ててあげてください」
ウィルは言われた通り、ベットの側で膝をつきタオルを握る。
「ゆ、優希、何をする・・・」
クロードの言葉を遮り、小さな声で呪文を唱え始める。
すると掌からキラキラと輝く光が出て、傷口を包む。
その光にクロードとウィルは目を大きく開ける。
光はクロードの肩を温かく包み、痛みを和らげる。そして、その光が小さくなるにつれて傷口が塞いでいった。
「ゆ、優希・・これは・・・」
クロードが声をかけた瞬間、光が消え、優希の体がゆらりと揺れて、ベットに倒れ込む。
「優希!」
クロードは慌てて体を起こし、優希を抱き抱える。
優希の額には汗が滲み、荒い息を吐いていた。
クロードはウィルからタオルを取り、額の汗を拭き、名前を呼ぶ。
「大丈夫か!?」
「・・・はい。これ、もの凄く疲れるんですよね」
目を開け、優希はクロードににこりと微笑む。
「優希、この魔法は・・・」
「・・・俺、本当は治癒の魔法も使えたんです。森にいた時はかすり傷を治す程度だったから、特に言わなくてもいいかなと思って・・・それに、あの時は、治癒より1人で生きて行く為の魔法の方が大事だったから・・」
優希はクロードの手をゆっくりと握る。
「ここに来て、怪我する事もなかったから特に練習もしてなくて、使えなくてもいいかなって思ってたけど、クロードさんが最後に本邸行って戻ってきた時、頬が赤くなっているのを見て、1人で練習してたんです。いつか使う時があるかもって」
優希の言葉に、クロードはハッと思い出す。
父に呼ばれ本邸に行った際、優希の事を問われ、初めて父に言い返した時に側にあった小物を投げられ、頬に当たった事があった。
当たったと言っても、かすめただけなので少しミミズ腫れができた程度だったが、優希はあれを見て心を痛めいたのかとクロードは悲しくなった。
「でも・・ごめんなさい、クロードさん」
「何を謝っているのだ」
「俺、体の傷は治せても、心の傷を治してやれない・・・」
「・・・・」
「クロードさんは、体より心の傷が沢山あるのに、治してやれなくてごめんなさい」
「そんな事はない。優希のその気持ちだけで十分だ」
優希の手を強く握り返し、クロードは声を振るわせ答えた。
「クロードさん、俺、少し寝ます。でも、夕食は起こしてください。俺、すごい楽しみにしてしてたんです。大丈夫、きっとみんな来てくれて、楽しい食事になります」
「あぁ、わかった。ゆっくり休め」
クロードの声に安心したのか、優希はすぐに目を閉じ、寝息をたてる。
「王子・・・これは・・・優希様は・・・」
「ウィル、この事は絶対に漏れてはいけない」
「はい・・・優希様の為にも万全を尽くします」
ウィルは立ち上がり頭を下げ、部屋を出ていく。
クロードは、寝息を立てている優希の髪をそっと撫でた。
優希を守らなくては・・・そう呟き、優希の額にそっと口づけをした。
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