第16話 傷

いきなり入ってきた男の姿を見た途端、座っていた使用人やザックが立ち上がり頭を下げる。男の後ろからは慌てた様子でウィルが入ってくる。

「モーリス王子、ここではなく応接間へ案内します」

ウィルの言葉を遮るように男は手をかざす。

「すぐ帰る。呪われの子の兄が連れてきた変わった奴を見に来ただけだ」

座ったままの優希を見下ろす様にモーリスは睨む。優希もモーリスが発した言葉に反応して睨み返す。

クロードは席を立ち、優希を隠すように手を伸ばす。

「もう見ただろう。帰ってくれ」

「ふーん。大事にしているという話は本当だったんだな。よく見れば可愛い顔をしているな」

モーリスは腕を組みながらふっと笑みを浮かべる。そしてクロードに顔を向けると、無表情でクロードを睨んだ。

「それにしても、こんな所で何をしているんだ?ままごとか?」

「・・・・」

「逃げたなら逃げたままで、大人しく篭っていればいいものを・・・」

「こ、ここは私の邸宅だ。大人しく邸宅にこもっているだろう」

「はっ、これはこれは口答えですか。誰の影響だろうな」

目線を優希にやりながら舌打ちをする。

「彼は関係ない。もう出ていってくれ」

クロードは優希を守ろうと、優希とテーブルの僅かな隙間に体を捻じ込む。

優希は捻じ込んだクロードの体が小さく震えているのに気づき、クロードのシャツをぎゅっと握る。

「面白くないな。人殺しが偉そうに何言ってるんだ」

怒りが混じった声をモーリスが発する。その言葉に優希は怒りが込み上げ立ち上がった。

「クロードさんは人殺しでも、呪われてもいません!」

「優希、やめるんだ」

「でもっ!」

クロードは優希の手を握り、首を振る。

「何も知らない奴が俺に口答えするとは、躾がなっていないな」

モーリスが人差し指を立てると、ナイフが宙に浮かぶ。そして、クイっと指を曲げると優希に向かって飛ぶ。

「うっ・・・」

呻き声に優希は顔を上げる。そこには盾になるように優希を抱きしめ、痛みに顔を歪めるクロードの顔があった。

「クロードさん!」

「チッ、バカな事を・・・今日はこれで帰る。くれぐれも出回らないようにな」

乱暴に言葉を吐き捨て、モーリスは部屋を出ていく。

「優希、怪我はないか?」

微笑みながらクロードは優希に声をかける。

そして、ゆっくりと肩に刺さったナイフを引き抜いた。

「王子!すぐに手当を・・・」

駆け寄るウィルにクロードは大丈夫だといい、優希の頭に手を置く。

優希の頬には涙がこぼれていた。

「すまない。怖い思いをさせたな」

「クロードさん・・・痛いのはクロードさんです!傷は肩だけじゃ無いです。クロードさんの心にも傷がついたんです。俺はそれが悔しい・・・」

「優希・・・」

「ウィルさん、俺が手当てします。みなさんは夕食の準備お願いします」

優希はクロードの手を自分の肩に回し、部屋に行こうと誘う。

クロードは俯いたまま、小さな声で周りの使用人に声をかける。

「み、みんな、すまない。私のせいで嫌な思いをさせてしまった。今日の夕食会は優希が私を思って提案した事だ。無理に参加しなくてよい」

「クロードさん・・・」

「王子・・・」

「優希、行こう」

静まった部屋にクロードの小さな声が響く。優希はクロードを支えながら部屋を出た。

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