第15話 家族

「クロードさん、今日は一緒に料理をしましょう」

魔法の訓練を終え、道具を片しながら優希はクロードに元気に話しかける。

「・・・料理?」

突然の提案にクロードは戸惑う。優希はニカっと笑い頷く。

「クロードさん、せっかく料理が上手なんですから、料理人と一緒に夕食を作りましょう。それで、あの広いダイニングでみんなで食事をしましょう」

優希はクロードの手を両手で取り、ぎゅっと握る。

「・・・私なんかが行っても大丈夫なんだろうか・・・?」

「クロードさん、俺、この何ヶ月かで気づいたんです。この邸宅の使用人さん達、確かにクロードさんの事を怖がっている人もいますが、それはクロードさんが身構えちゃうし、ここの主人でもあるからだと思うんです。主人は怖い存在ですからね」

真っ直ぐにクロードを見つめ、優希はゆっくりと優しく言葉を繋ぐ。

「でも、最近は邸宅内で堂々と歩く姿や、クロードさんの笑顔を見て考えが変わって来てると思うんです。あとは、クロードさんが歩み寄ればいいんです。クロードさん、俺も家族には恵まれませんでした。でも、孤児院のみんなが家族になってくれました。俺にとっての家族は、血が繋がってなくても、一緒に暮らして、一緒にご飯を食べて、笑ったり悲しんだり、互いを思い合ったりする事が出来る人達なんです。今、クロードさんの側にいてくれる人は誰ですか?」

「・・・・」

「噂や王様の言葉で誤解が生まれて、周りの人達が避けてしまったけど、それでも今、この邸宅に残ってる人達は、クロードさんの元でクロードさんと暮らして、クロードさんのお世話を一生懸命してくれます。特にウィルさんはクロードさんをとても思ってくれてます。クロードさん、これも家族です」

「家族・・・」

「はい!だから、まずは一緒に食事をしましょう。今まで使わなかったあの広いダイニングを今こそ使うチャンスです」

優希の言葉に、俯きながらクロードはだが・・・と言葉を濁らせるが、優希はニコッと微笑み返す。

「俺が側にいます」

そう言って、クロードの手をしっかりと握り手を引く。クロードは引かれるがままキッチンへと向かった。


「も、申し訳ありません!」

スープの具材である野菜の皮むきを、キッチンのテーブルに座り、使用人達と剥いていると、クロードと使用人の手が触れた。

「い、いや、構わない。わ、私こそすまない」

相変わらず吃ってしまう。優希のおかげか思ったよりは気まずい雰囲気ではないが、クロードが緊張しているせいか、使用人達にも緊張感が移る。

「みなさん、ナイフの使い方が上手いですね。俺の世界・・・俺の住んでた所は皮剥きの道具があったから、ナイフはまだ難しいです」

明るい声と裏腹に優希は顔をしかめる。

「そんな事ありませんよ。優希様はここでお手伝いしてくれる様になってから、だいぶ上達しました」

「料理長のザックさんに褒められたら、俺、調子に乗っちゃいますよ」

ふくよかな体型をしたザックはふふっと笑い、クロードにも話しかける。

「それにしても王子は料理もできるんですね。長年ここで働いてますが、初めて知りました」

急に話を振られ、クロードがビクッと体を強ばらせる。そんな様子を見た優希がナイフを置いて、隣にいるクロードの手に自分の手を添える。

その温もりに安心して、クロードは辿々しく口を開く。

「は、母と、あの森のコテージに行った時は、一緒に料理をしてたのだ。母は・・・母は知っての通り庶民出だから、料理は得意だった・・・」

「そうでしたか・・・」

クロードの言葉に、ザックは手を止め懐かしむような顔をした。その表情を見てクロードはまた口を開く。

「は、母を・・・母を懐かしんでくれて、そ、その感謝する」

「いえ・・・前王妃様はとても明るい方で優しかった・・・そんな前王妃様は、周りからとても親しまれてた方なので、ここにいる皆も懐かしんでくれると思います」

「・・・あぁ、そうだな」

クロードはザックの言葉に嬉しそうに微笑む。優希もクロードの笑みに釣られて微笑んだ。

だが、場が和やかになった瞬間、ドアが荒々しく開かれる。

「何してるんだ?お前」

振り返ると背の高いブラウンの短髪に、グレーの瞳をした男が立っていた。

その姿にクロードの顔が引き攣る。

「モ、モーリス・・・」

「何とまぁ、滑稽な風景だ。部屋に篭るのに飽きて使用人の真似か?お兄様」

その不敵な笑みに、その場にいた誰もが凍りついた。

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