第14話 クロードの変化
「忍者とやらはどこに行ったのだ・・・」
いつの間にか使用人達と打ち解けあって、庭で楽しそうにおしゃべりしている優希を、窓から見つめながらクロードは呟く。
あれから二ヶ月が経った。初めは2階にある部屋を1日一部屋ずつ制覇して行こうと優希から提案があり、一部屋を覗くだけならと毎日の日課にして邸宅内を歩いた。
初めは使用人達の目が気になりビクビクしていたが、優希はあの日と同じ様に体がビクつく度にぎゅっと手を握り、大丈夫と励ましてくれたおかげか、一ヶ月経つ頃にはだいぶ平然と歩けるようになった。
ただ、未だに使用人達との距離はあった。
どうしても話しかける事が出来ないでいた。
優希はそんなクロードにゆっくりでいいと言い、まずは挨拶だけするようにしようと提案してくれた。
つい声が小さくなり吃ってしまうが、挨拶ができた時は優希が親指を立て、よく出来たと合図をしてくれる。それが嬉しかった・・・。
「クロードさん、俺、キッチンのお手伝いをしてきます」
「わ、わかった」
元気に部屋を出ていく優希を見ながらため息がこぼれる。
この部屋にウィル以外の使用人が入るのが、未だに見慣れない光景で緊張するのだ。
そして一番まだ慣れない光景は、部屋に光が入る事だ。
カーテンが開かれた窓に目をやり、クロードはぼんやり外を眺める。
優希が来るまで、この部屋はカーテンを閉めて外から自分の姿見えないようにしていた。わずかな光を感じながら、薄暗い部屋で一日を過ごしていたのだ。
優希は、人間は日光を浴びなきゃだめだと、ここへ来た翌日から部屋中のカーテンを開けた。そしてにこりと微笑み、クロードにこう言った。
光は人間の道標だと・・・・。
暗い気持ちも光が消し去ってくれる。
真っ暗な道も光が照らしてくれれば、前に進める。
だから、生きて行く為に人間は光にあたってなくてはいけないと・・・。
優希の言葉は、どうしてこうも心に響くのだろうか・・・
「優希・・・」
窓の外を眺めながら、クロードはボソッと優希の名を溢す。
そんな穏やかなひと時を過ごしていると、ドアを叩くノック音がして、振り向くとウィルが入ってきた。
そして、クロードに束ねた紙を渡す。
「王子、先日売却した家具の明細と、購入予定の品物の見積もりです」
クロードは手渡された紙の束を受け取り、めくり始める。
邸宅内を散歩するようになって、優希やウィルと相談して模様替えをすることになった。
それの準備金に充てる為、優希の提案でいらない家具や装飾品を売却することになり、細かい事をウィルに頼んでいたのだ。
クロード自身に割り当てられているお金はそう多くはない。
その中でウィルがあれこれ考えてやってくれているは知っていた。
だから、今まではウィルに負担をかけないように何も欲張らず、部屋に籠ることで出費を抑えることにしていた。
だが、ここの使用人は三階の部屋に住み込みで働いて、探索をしている際に使用人の部屋を訪ねたが、あまりにも質素すぎる部屋に驚いた。
長年この邸宅に住んでいるが、使用人の実状など部屋にこもっているクロードは知る由もなかった。
(こんな私に仕えるのも辛いはずなのに、こんな待遇では余計に辛かろう)
クロードは申し訳なかったとウィルに謝り、売却した準備金の半分を使用人に充てることにした。
2階の部屋は、クロードと優希の部屋以外は来客用で現状維持し、1階はその都度変えていこうと決め、2人の部屋はそれぞれ好みの部屋にする為に、お互いの部屋のいらない家具を売却した。
優希は広くなった分訓練もできるからとほぼほぼ売却し、その代わり小さくてもいいからボールが欲しいとクロードに頼み込んでいた。
「使用人のベットは本当にこの金額の物で良いのか?あと、優希が希望していたサイズのボールは見つかったのか?」
「ベットは使用人が使うには十分すぎるほどの金額です。それ以上となるとあまりにもの心地良さで仕事をサボる者が出てきては困るので、これで十分です」
ウィルは微笑みながら答える。
「それから優希様のご要望の物は今、職人が作っているのでもう少し時間がかかるかと思います。ですが、あれだけ部屋の物を売っているのに、優希様の物は本当にボールだけでよろしいのですか?」
「あぁ。優希は生まれ育った境遇からか、贅沢という言葉がわからんようだ。優希のボールを使った芸は本当に見事だから、届いたら一度見せてもらうといい」
クロードは、以前見せてもらったリフティングを思い出し、いつの間にか笑みが溢れる。
「クロード王子は本当に良い方に出会えましたね」
「あぁ。私もそう思う。このままここで過ごしてくれるといいのだが・・・」
そう溢しながら、クロードは顔を曇らせ俯く。
そんなクロードを心配そうに見つめ、ウィルは口を開いた。
「2、3お聞きしてよろしいですか?」
「何だ?」
「優希様はどこの出なのでしょうか?あの黒髪に黒目は珍しいので・・・それに、持ってらっしゃる服も珍しい。何より優希様が以前仰っていた、いつかいなくなると言うのはどういう事なのでしょうか?」
「・・・そうか。ウィルにもそんな事を言っていたのか・・・ウィル、これから話す事を信じてくれるか?そして、この話は口外しないと誓ってくれ」
そう言ってクロードは優希の事を話し始めた。
優希は異世界から突然来た事、5年もの間あの森の小屋で1人で住んでいた事、優希の世界の事を全てを話した。
黙って聞いていたウィルは、最後には少し鼻を啜りながら口を開く。
「まだ子供だという年頃に、あの場所に1人で過ごしていたとは・・・あの明るい表情からは想像できません。どれだけ、寂しい思いをして過ごしていたのか・・」
「それと・・・これは絶対に漏らしてはいけない。優希には魔法属性の全てが備わっている」
「本当ですか!?」
「あぁ。あまり人前で魔法をあれこれ使ってはいけないと強く言っているから、他の者が見たとしても一つ二つくらいだろう。元々優希の世界では魔法というものは存在しておらず、ここの世界に来て独学で身につけたそうだ。最初に見た時は微々たる物だったが、訓練を増すごとに増大している。もしかすると、魔法レベルは王宮護衛達を超えるかもしれん」
「そんな事があるんでしょうか・・・この事は絶対に漏れる事が無いよう、私も優希様を見守ります」
「あぁ。頼んだぞ。それと・・・父が優希の存在を知っている。ここから出さないと言う条件で何とかここに留める事ができたんだが、それも気にかけてくれないか?」
「かしこまりました」
ウィルは深々と頭を下げる。重々しい空気の中、何も知らずにただいまと笑顔で優希が戻ってきた。クロードはその笑顔を見ながら不安を感じていた。
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