第12話 クロードの世界

優希がクロードの家に来て一週間が経った。

たった一週間なのに、優希にとって気がかりな事が多く、頭を悩ませていた。


クロードは部屋からあまり出ようとせず、優希に付きっきりで魔法の勉強や、字の勉強を教えている。

唯一、部屋から出る剣の訓練の日でも、終わるとすぐに部屋に戻って来ていた。

一番気にかかる事は、部屋から出る時は必ずコートを着てフードを深々とかぶっている事だ。

特に使用人から酷い事をされるわけでもなく、どちらかと言うとクロードの方が避けているようだった。


そんなある日、少しだけ本邸に行ってくるとクロードが出かけていったので、優希は1人で魔法の練習をしていた。

ここに来てからは、呪文の唱え方と魔法陣を教えてもらっていた。

小さな声でボソボソと唱えると、目の前に小さな魔法陣が浮かび上がり、その中から思い描いた魔法が現れる。

そして、その魔法が素早く手元に馴染むと、優希は手のひらを上にかざした。

すると、今までは小さな竜巻しか起こせなかった風が、手のひらで踊るように舞い、練習にと吊るしていた紐に向かい伸びる。

紐に纏わりつくように風が包んだら、人差し指を立てクルクルと回す。

その動きに沿って、紐がゆらゆらと揺れ空中で結び目を作る。

完成した結び目を見た優希は、満足げに指を下ろすと、風がぴたりと止んだ。

「ふふっ、これで悪者を締め上げる事ができるな・・」

悪そうな顔をしながらニヤリと笑う。

「優希様、結ぶだけでは逃げますよ」

突然声を掛けられ振り返ると、あの日出迎えてくれた年配の執事が立っていた。

「ウィルさん!」

優希の声かけにウィルは笑顔で応え、手押し台を押しながらテーブルへ寄る。

「優希様、一休みしませんか?紅茶とケーキをご用意しました。クロード王子から、優希様は甘い物が好きだと伺ったので・・・」

ウィルは運んできたケーキをテーブルに置き、紅茶を注ぐ。

「やった!ありがとうございます!」

久しぶりのケーキに優希は満面の笑みを浮かべ、すぐさまテーブルのそばへ駆け寄り、長椅子に腰を下ろす。

「ウィルさんも一緒にどうですか?」

「お言葉だけ受け取っておきます」

「俺は貴族でも何でも無いから、そんなにかしこまらないで下さい」

優希はケーキを頬張りながら、そうウィルに話しかけると、ウェルはニコッと微笑み口を開く。

「そう言うわけにはいきません。クロード王子のご友人です。私が知る限り、クロード様が大切な友人とおっしゃったのは優希様が初めてです」

「そうなんですか?」

不思議そうな顔で優希は答えたが、クロードの話を思い出し、友と呼べる人も作れなかった境遇を不憫に思った。

「あの、ウィルさん。少し聞いてもいいですか?」

「何でしょう?」

「クロードさんから少し事情は聞いてるんですが、あの、ここの使用人の方達はクロードさんが嫌いなんでしょうか?俺にはそう見えなくて・・・確かに少し怖がているのかな?と思うところはあるんですが、逆にクロードさんの方が避けているような気がするんです」

「そうですね・・・どこまで聞いているのかわかりませんが・・・私は、クロード王子がここに来た時からお世話させていただいてます。まだ、クロード王子が10歳の頃でした。色々と不運な事が続いて、クロード王子は寂しい幼少期を過ごされました。良からぬ噂などが、余計にクロード王子の心を閉ざしてしまったのです」

優希の飲み干したカップに紅茶を注ぎながら、ウィルは話を続けた。

「正直に言えば、皆、その良からぬ噂を怖がっています。私はずっとお側に支えていたので、呪いなど移らないとわかっているのですが、他の者には噂の方が優っている様でして・・・それに、クロード王子も怖がらせたくないと、私以外とあまり接触していなかったので、それが助長したのかも知れません」

「そうですか・・・」

「優希様、私は長年使えてますが、クロード王子の笑顔を見たのは初めてです」

「え!?」

ウィルの言葉に、優希は持っていたフォークを落とす。

慌てて拾おうとした優希の手を止め、ウィルがそっと拾う。

「それだけクロード王子の心は深く傷付き、閉ざしてしまっているのです。クロード王子は王妃様を、お母様を心から愛しておりました。王妃もまた、不憫な息子を心から愛し慈しんでいらっしゃいました。王妃様の死は、当然クロード王子にとっても衝撃的でしたのに、父である王様は自分の悲しみに負け、クロード王子を憎む事で悲しみを乗り切ろうと思ったのかも知れません」

優希はウィルの話を黙ったまま聴いていた。

ウィルはそんな優希に、新しいフォークを渡しながら話を続けた。

「優希様、私は貴方様がクロード王子の側にいてくれる事に感謝しております。あの笑顔が見れた事が私は嬉しいのです。ですから、クロード王子の側にずっといてやってくださいませんか?」

「ずっとは・・・出来ればずっと居たいけど、これは約束できません。でも、時間が許す限り側にいます。俺はきっとクロードさんを幸せにする為に出会ったんだと思ってるんです。だから、それまでは俺がそばにいて、ウィルさんにもっとクロードさんの笑顔を見せてあげますね」

優希は親指を立てて、ウィルに笑顔を向ける。ウィルも優希の言葉に安堵して笑顔を返した。

忍者になるつもりだったけど、まずはクロードさんの居場所を作ってあげないといけないかも知れない・・・優希はそう決意して、クロードが戻って来るまで色々と作戦を立てる事にした。

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