第11話 完璧なモブになるために
クロード・ソマリア・・・そう名乗ったクロードはバレンダ国の第一王子で、今は病に伏せてる王である父に呼ばれ、帰還したらしい。
「王子かぁ・・・」
優希は準備された部屋に案内され、持ってきた服をクローゼットにかける。
持ってきた食材は使ってくださいとメイドさんに預けた。
ここが何かの物語なのか、ただ単にそういった世界なのか、わからない事ばかりだった。
覚えのない名前などに不安が溢れ出てくる。
もしかしたら、俺の選択で話が絡まったり、下手したら断罪されたりする可能性もある・・・ここは徹底してモブに周る方が得策かも知れない・・。
でも、クロードの境遇を思うと多少悪目立ちしても、味方になってやりたい。
専属護衛なんて大きな事を言ったが、そうなるとどうしてもモブ枠から外れてしまう。
あくまでもクロードさんの邪魔にならない様に、控えめに、黒子の様に振る舞わなくては・・・はっ!クロードさんの邪魔にならずに、護衛になる・・・隠密みたいになればいいのか!日本人の俺にピッタリじゃん!
そうと決まれば、クロードさんに相談して忍者になろう。これこそ正にジャパニーズニンジャだ!
体は大人になっても、考えが子供のままの優希はニタニタと笑みを浮かべながら、机に紙とペンを並べて何かを書き始めた。
コンコン・・・ノックの音に振り返ると、クロードが立っていた。
今にも倒れそうな、暗い顔で立っている。
あれから王に謁見してくると部屋を出たのだが、また、父親にひどいことを言われたのだろうか・・・そう思うほど、表情が良くなかった。
「優希・・・勉強中か?」
クロードは、躊躇いながらも優希の側に歩みながら尋ねてくる。
優希は笑みを浮かべ、クロードに手招きした。
「クロードさん、俺、いい事思いついたんです」
「いい事・・・?」
「見て下さい」
そう言ってさっきまで熱心に書いていた紙を、自慢げにクロードへと見せる。
そこには、忍者の姿になった優希の絵が描かれていた。
「何だ、これは?」
「忍者です!」
「に、にんじゃ?」
「はい!んー・・・ここでは何ていうのかな?影の護衛みたいな?あまり人の目に触れず、陰ながら主人を守ったり、時には情報を集めに行ったり、そういう人です」
「な、なるほど・・・」
いまいち理解ができていないが、目を輝かせて話しかけてくる優希に、クロードは躊躇いながらも相槌を打つ。
「クロードさんの邪魔にならずに、クロードさんの支えになる方法を考えたらコレが一番いいと思って!あくまでもモブ・・・目立つ事なくクロードさんのそばにいます。俺はこれが役目だと思ってますが、いつ戻るかわかりません。それなら、クロードさんの人生の邪魔にならない様に、周りの人に印象を与えずに、ひっそりとクロードさんを守ります」
「・・・ずっとこれを考えていたのか?」
「はい!だから、クロードさんは何も心配しないで、どっしり構えていてください。そうしたら、周りの人達もクロードさんを見る目を変えるかも知れません。クロードさんは優しくて強い!俺はみんなにも知って欲しいです」
満面の笑みで答える優希の言葉に、クロードは自然と目頭が熱くなっていた。
さっきまで、父に罵られてきた。
(別邱で大人しくしているのかと思ったら、外でフラフラ出回っているんじゃない!情けをかけてここに住まわせている事を忘れるな。ひっそり暮らしていればいい。お前の呪いが他に降り掛かっては困る。お前は外見からして何もかもが劣る。いいか、でしゃばらずに大人しく篭っていろ)
いつまでも父の口から出る「呪われた子」・・・その言葉がクロードを苦しめていた。父の部屋から出て、ふらふら歩いてると無性に優希に会いたくなった。
それで急いで戻ってきたら、優希は1人で待っている間、私の事を思い、色々と考えてくれていた。
きっと、思わしくない表情をしていただろう私の気持ちを察してくれたのだろうが、優希の口から語られる言葉一つ一つが心に染みて嬉しかった。
私は1人ではない・・・そう思わせてくれる優希の言葉が、笑顔が心底嬉しい。
だからこそ優希の言う、いつかいなくなるかも知れないという言葉が悲しかった。
ずっと私のそばにいて欲しい・・帰らないで欲しい・・そんな気持ちが強く胸を締め付けた。
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