第10話 モブになれた!?

夜明けと共に目が覚めた優希は、腫れぼったい目を必死に開け、隣で寝ていたはずのクロードの姿を探す。

部屋にあったはずの鞄がないのに気づき、ベットから飛び起きる。

(そんな・・・挨拶もしないまま、帰ったの?)

慌てて玄関の方へ駆け出す。しんと静まり返った家の中を横切り、玄関のドアをおもい切り開けるが、そこにクロードの姿はなかった・・・。

視界がぼやけて、涙が溢れ出す。黙って出て行った怒りより、寂しさが込み上げて来て涙が止まらない。

嗚咽交じりの声を上げながら、またクロードの部屋に戻り、ベットに潜り込む。

まだクロードの匂いが残るベットで、頭まで毛布を被り、体を丸めて泣き続けた。

しばらく泣き続けていると、ドカドカと言う足音が聞こえ、部屋のドアが大きな音を立てて開かれる。

毛布から頭を出して、ドアの方へ顔を向けるとクロードが立っていた。

「クロードさん・・・」

優希の泣きじゃくった顔を見て、クロードは優希のそばへ駆け寄り抱きしめる。

「すまない。こんなに泣かせてしまって・・・」

「クロードさん・・・どうして・・・」

「優希の顔を見たら帰るのが辛くなると思って寝ている間に家を出たんだが、優希が泣いているかも知れないと思ったら、足が止まってしまって引き戻してきた」

「クロードさん・・・黙って出ていくのは嫌です。もう会えないかも知れないのに、ちゃんとお別れしたいのに・・・」

「あぁ・・・すまなかった」

「クロードさん・・・」

優希はクロードの背に手を回し、何度も名を呼び声を出して泣いた。

クロードは優希が泣き止むまで、背中を優しく撫で続けた。そして、落ち着いたのを見計らって体を離すと、両手で優希の涙を拭いいながら口を開いた。

「優希・・・私と来ないか?」

「え・・・?」

「追々話すが、私はあまり家族とうまく行っていない。だから、一緒に来ても居心地は悪いかも知れない。それに・・・私の姿に幻滅するかも知れない。だが、ここに優希を1人で置いていけない。もう二度と会えなくなるかも知れないなら、尚更、離れたく無い」

クロードの真剣な顔に、優希は黙ったまま見つめ返す。

「できるだけ側にいて、優希が寂しい思いをしたり、私の周りの者が傷付けないように守ってやる。だから、優希、私と一緒に行かないか?」

「・・・いいんですか?」

「もちろんだ。ただ・・・本当に私に幻滅するかも知れない。その時は・・もし、離れたくなったら、遠慮なく言ってくれ」

「・・・俺、言いましたよね?俺はどんなクロードさんでも幻滅しません。俺が見てきたクロードさんが、本物のクロードさんです。もし、家の事で辛い思いをしているのなら、俺が頑張って支えになります。だから・・俺を連れて行って下さい」

「あぁ。一緒に行こう」

クロードは優希の手を強く握り、微笑む。優希も強く握り返し笑顔を見せた。


それから慌ただしく荷物をまとめ、昼前には家を出た。

元々優希の荷物は少ないので、サッカー用の鞄一つで収まったのだが、買い過ぎた食料をもったいないので手引きカゴに乗せて持っていく事にした。

玄関のドアを閉め、先日植えた野菜をみつめるとクロードが肩に手を置き、また2人で来ようと言ってくれた。


森を抜けると立派な馬車が待っており、さすが貴族だと思いながら優希は初めての馬車に胸を膨らませ乗り込む。

クロードの家までは、二日かかるらしく馬車に揺られながら、持ってきた燻製肉をパンに挟み2人でかぶりつく。

途中の街で宿に泊まり、朝は早くから出発した。

道中、優希は初めて見るものに目をキラキラさせていたが、クロードは家に近づくにつれて顔を曇らせていった。

そんなクロードの様子を見て、優希は隣に座り手を握る。何も言わなくても、手の温もりから大丈夫と言われている気がして、クロードは笑みを浮かべる。

二日目の夕方、ある屋敷門が開かれ、更に奥へといった屋敷の前で馬車が止まりドアが開かれた。

途中から街に入る度にカーテンを閉める様に言われていたので、最初の門からみえるはずの景色は見ておらず、ドアが開いた先の屋敷の大きさに優希は絶句する。

そして辺りを見回す・・・・。

位の高い貴族と思っていたが、これは、まるで・・・と胸の中に不安がよぎる。

「クロード王子、お帰りなさいませ」

執事の格好した年配の男性が、ドアの前でお辞儀する。

(え!?今、王子って言った!?)

執事の言葉に、クロードと執事の顔を何度も交互に見返す。

クロードは表情を変えず、優希の肩を引き寄せると、開けられた大きなドアへと歩き出した。

ドアを潜ると数名の執事やメイドが、頭を下げてクロードを出迎える。

「彼は私の大事な友人だ。ここにしばらく滞在する。部屋は私の隣を空けてくれ。これからは私と同様に接するように」

そう一言告げるとクロードは優希に手を差し伸べ、足早に自室へと向かう。

手を引かれるまま優希は付いていくが、状況についていけず困憊していた。

部屋に入ると、中央の長椅子に優希を座らせ、ため息を吐く。そして、優希の隣に座り髪を撫でる。

「びっくりしただろう?」

「えっと・・・」

「ここは王都にある王宮だ。私はこの国の第一王子だ」

「だっ、第一王子!?」

突然のクロードの告白に、頭がパニックになる。

ここにきて、いきなり主人公級の友人役!?モブ確定!?そんな考えが頭の中を駆け巡る。

「まぁ・・・色々あって、名ばかりの王子ではあるが・・・」

パニック状態の優希を見ながら、クロードは苦笑いしながら呟く。

「先にこれだけは言っておかなくてはならない・・・。私はここでは嫌われ者だ。私の母は庶民で、父である王に見染められ王妃になり私が生まれたのだが、2歳を過ぎた頃に、突然髪の色が変わり始めた。元々髪は母譲りのブラウンで、目は父譲りのグレーだったんだが、髪の色が変わるにつれて、この目も色素が薄くなり、今はこの状態だ」

深々と被っていたフードを取ると、サラリと長い赤髪が落ちて来る。

優希の髪を撫でていた手は膝に置かれ、コートを握りしめる。

俯きながらクロードは言葉を繋ぐ。

「私が変わっていくと同時に、母の体調も悪くなり、完全にこの状態になった10歳の時に亡くなった。それから、私は呪われた子として育った。ここは、王宮ではあるが本邸とは離れた別邱になる。母が亡くなった事で、愛する者を亡くした父がここへ私を追いやった。いまだに嫌われているんだ。父も弟も、新しい王妃も・・・ここにいる使用人も、表に迎えにきた執事以外は私を嫌い、怖がっている」

辛そうに語るクロードを優希は抱きしめた。

忘れていた・・・主人公級の人達は何かしらトラウマ的な過去を持つことが多い・・・本の中の出来事として見ていたが、これは現実だ。

クロードの悲しみや痛みが、ひしひしと伝わる。

「俺はクロードさんが大好きです。俺がクロードさんの味方になります」

「優希・・・」

「そうだ!俺、もっと魔法を勉強してクロードさんの専属護衛になります!ただでお世話になるのも申し訳ないので、護衛としてここで働きます」

「ふっ、護衛か・・・」

「はい!いつまでそばに入れるかわかりませんが、俺が側でクロードさんを守ります。そして、弟子としてクロードさんに仕えます。あと、兄貴として、友人としてクロードさんを支えます」

体を離し、クロードの両手をしっかりと握り、ニコッと笑ってクロードを見つめる。

「その前に、俺に色々教えてくださいね、師匠」

「そうだな。その前に勉強だな」

目を合わせ、2人で笑い合う。

「クロードさん、ありがとうございます」

「何の事だ?」

「俺に役目をくれた事です。これが本当の役目かはわかりませんが、俺はクロードさんを幸せにする事が役目だと思ってます」

「・・・優希。あぁ・・ありがとう。その言葉だけで私は幸せだ」

今にも泣き出しそうな顔でクロードは微笑んだ。

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