第8話 クロードはお金持ち

「うっ・・ひっ・・」

小さなうめき声と悲鳴を上げながら、優希に手を引かれながらクロードは街中を歩く。その度に、優希は手をぎゅっと握り、大丈夫と合図する。

初めてみる異世界の街波にキョロキョロと興味津々で忙しく首を動かしている優希だが、クロードの小さな反応を見逃さず側にいた。

孤児院で自分より年下の子を見ていた名残なのだろうかと、クロードは感心する。

「クロードさん・・・」

「な、なんだ?」

突然耳元で優希が話しかける。

「クロードさんて、お金持ってますか?」

「あ、あぁ、もちろんだ。お肉欲しいんだろう?その為に来たのだ」

「そうですよね・・・ありがとうございます・・・その・・・」

何かを言いにくそうに優希は俯いてモジモジする。

「どうした?」

「あ、あの・・どのくらい持ってますか?」

「何をだ?あ、お金か?」

「はい・・・」

「欲しい物でもあるのか?」

そう尋ねるクロードに、優希はさらにモジモジしながら、ゆっくり指をさす。さされた先を見ると屋台に並べられた甘い香りのする焼き菓子が見えた。

「お菓子が欲しいのか?」

「・・・はい。俺、甘い物が好きなんだけど、ここに来て食べてなかったから・・」

顔を赤め答える優希が可愛くて、クロードはふっと笑う。

「あ!今、笑いましたね!」

勢い良く顔をあげ、頬を膨らまし拗ねる。

「男でも甘い物が好きな人もいるんです!」

「あぁ、すまない。優希の顔を赤らめてねだる姿が可愛くて笑ったんだ」

「かっ!可愛いって何ですか!?俺は立派な大人の男です」

胸をポンと叩き、どうだと言わんばかりに胸を張る。その仕草が余計に笑いを誘う。初めは怒っていた優希も声を出して笑うクロードに釣られて笑顔になる。

「少しは緊張がほぐれましたか?」

「あぁ・・そうだな。よし、お礼に好きなだけ買ってやる」

「やった!クロードさん、最高です」

親指を立てて笑顔で優希は答える。それから屋台へ移動し、クリームの乗ったカップケーキと果実飴を買い、噴水のそばで腰掛け、それを頬張った。

美味しそうにケーキにかぶり付き、何度も最高と呟く。リスみたいだなと思いながらクロードは優希を優しく見つめた。

ケーキを食べ終わる頃、2人の足元にボールが転がってきてクロードの脚に当たる。離れた所から男の子が駆け寄ってくる。その姿に、クロードはビクッと体を強ばらせた。

「大丈夫です」

そう言って優希は足元のボールを拾うとクロードに持たせる。

「クロードさんから渡してあげて下さい」

渡されたボールを見つめ、側に駆け寄ってきた子供に差し出す。

「ど、どうぞ・・」

「あ、ありがとう・・」

クロードのどもりが移ったのか、子供も吃りながらお礼を言う。ボールを受け取りながらじっと見つめてくる視線を感じ、慌ててクロードは俯いた。

「僕、どうした?」

優希はしゃがんで子供に声をかけると、優希の声掛けに子供はニコッと笑う。

「このお兄さん、目が綺麗だね」

その声にクロードが顔を上げる。髪も口元も隠し、本当は目も隠してしまいたがったがそう言うわけにもいかず、なるべく人と目が合わないように歩いてきた。

ほんの少しだけ目が合っただけなのに、子供が目を誉めてくれた。

空耳の様にも思えてじっと子供を見つめる。

「そうだぞ。このお兄さんは目も綺麗だし、顔隠してるけど顔も髪の色も綺麗なんだぞ。それに優しい」

優希は子供の髪を撫でながら、まるで空耳じゃないとクロードに言っているように微笑む。クロードは目頭が熱くなるのを必死に我慢して優希を見つめる。

「よし、お兄さんを褒めてくれたお礼にリフティングを見せてやる」

そう言って子供から少し貸してとボールを受け取る。

「リフ・・リフってなに?」

「リフティングだ。まぁ、見てろ」

ボールを足下に置き、つま先で器用にボールを掬うと膝に一度のせ、つま先に乗せ、おでこへと乗せる。

いろんなポーズでボールをリズムよく回していくと、そばにいた子供が歓声を上げる。離れて待っていた子供達も集まり、いつの間にか大人も集まってきた。

しばらく続いた後、最後に腕にスポッとボールを収め、片手を胸に当ておじぎすると拍手が湧きあがった。

すると、足元にチャリンと何枚かのコインが投げられた。どうやら芸を披露していると思われたらしい。優希は子供にボールを返し、コインを拾った。

「クロードさん、なんかお金くれたけど、これもらって良いんですかね?」

優希の声に今まで黙って見つめていたクロードが我に帰る。

そして目を輝かせ優希に抱き付いた。

「優希!君は本当に不思議な人だ。すごく綺麗だった。キラキラと輝いてて、あんなに沢山の人を魅了する。本当に・・君は最高だ!」

いきなり抱きついてきたクロードにびっくりはしたものの、クロードの最高だの言葉に声を出して笑う。

「俺の口癖がうつりましたね。クロードさんも最高です」

親指を立てると、体を離してクロードも親指を立てて笑う。

それから肉屋に行って燻製をいくつか買い、優希の分だと服を数枚買った。

「クロードさん、そんなにお金使わないでください。それに、俺もさっきもらったから少しあります。ここから使ってください」

「そのお金は君が初めて稼いだお金だ。大事に取って置きなさい。それに、これくらいでは私は困る事も、破綻する事もない。心配するな」

クロードは笑顔で答えるが、優希は心配でしょうがなかった。

貧乏性で節約が当たり前の生活をしてきて、この世界ではお金という概念がない生活をしてきた優希には、クロードの買い物の仕方が尋常な物に見えた。

どうみても高そうな服や、肉の塊、必要だからと雑貨まで買い込む始末。

おかげで簡易の手引きカゴまで買う羽目になった。

どんどん積まれる荷物を見ながら、クロードは恐らく貴族の中でも高い位の人なのかも知れないと優希は思った。

ため息と同時に、ふとある事が頭をよぎる。

(位が高い貴族なら、そんなに長くは家を不在にする事はできないはず・・・)

その思いは、もうすぐ別れの時が来るという知らせでもあった。

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