第7話 街に出る
あれから2日経ち、優希の熱心な練習の成果か、すでに体内のマナをマスターし、蝋燭程度の火も掌サイズまでレベルを上げていた。
日中は練習と食材集め、夕食後は寝る時間まで本を読んでいた。
文字を書くのはゆっくり覚えるから、先に読み方を教えて欲しいと優希から要望があったからだ。
「だって、クロードさんはいつ帰るかわからないじゃ無いですか。先に読み方を覚えておけば、文字はゆっくり自分で覚えていきます。今の所、何かを書いたり、誰かと手紙のやり取りをする予定はないですから」
そう言って微笑みながら、優希は熱心に本を読み始める。
この先も1人で生きていく準備をしている優希の姿に、ほんの少し寂しさを覚えながら、クロードは黙って見守っていた。
「あっ!」
「ど、どうした!?」
翌朝、キッチンの方で大きな声で叫ぶ優希の声に、クロードが部屋から飛び出してきた。
「クロードさん、どうしましょう?」
「何だ?どうした?」
「気をつけて食べてたのに、最近、俺、食欲が出てきたらか、お肉の燻製が残り少ないです」
目を潤ませ、手に持っていた肉の塊を差し出す。何事もなかった事に安堵のため息を吐きながら、クロードは考え込む。
「でも、そうか・・・クロードさんがいなくなったら、もう肉は食べれないのか。あぁ!俺ってば、もう少し考えて食べれば良かった!」
頭を抱え優希はしゃがみ込む。そんなに嘆くことなのかと思いながら、クロードは意を固めて口を開く。
「優希・・・街へ出てみるか?」
「へ?」
「実はこの森から一番近い街まで、さほど距離はない。今まで言わなかったのは、俺がいなくなった後、優希が1人でこの森を歩く事に杞憂していたからなのだ。この森には動物や獣がいる。もちろん鍛錬を積んで、もっと魔法を使えるようになれば何とか切り抜けていけるのだが・・・どうする?道を覚えるためにも行くか?」
「・・・行ってみたいです。俺、お金ないからそうそう森の外へは出ないと思いますが、他の人にも会ってみたいし・・・街に慣れたら、クロードさんにも会いにいけますか?」
「それは・・・」
俯きながら返答に困っていると、優希は慌てて聞き返す。
「あ、会いにいけなくても、手紙を届けてくれる所はありますか?俺、頑張って文字を覚えてクロードさんに手紙を書きます。それだけでも、許してもらえますか?」
「・・・あぁ、構わない」
クロードの返事に、優希は目を輝かせ満面の笑みを浮かべる。
「じゃあ、準備しましょう!すぐ!今すぐ、行きましょう!」
優希は立ち上がり、クロードの腕を引っ張る。その笑顔に微笑み返しながら支度を始めた。
「クロードさん・・どうして、そんなに顔を隠すんですか?」
森を抜けた所で、クロードは羽織っていたマントのフードを深々と頭にかぶせ、口元を布で覆い隠す。
そして隠せるはずもない体を、必死になって優希の体で隠そうとする。
「い、いや。実を言うと沢山の人前に出るのは久しぶりなんだ」
「え?じゃあ、あの森までどうやってきたんですか?」
「馬車で来た・・」
「馬車・・・帰りはどうするつもりなんですか?」
「あぁ、私が飼い慣らしている鷹がいて、そいつに手紙を括り付け連絡すれば、待ち合わせの場所に馬車が手配される事になっている」
「・・・・」
「も、もう少し歩けば、街の入り口へと着くはずだ」
おどおどしながら、優希の後ろを歩く。優希はそんなクロードを見て、ため息を溢した。
「す、すまない。幻滅したか?」
「・・・いいえ。クロードさん、何か事情があるんだろうけど、無理には聞きません。ただ・・・人が怖いですか?」
「・・・あぁ。人も人の目も怖い。私は嫌われ者だから・・」
俯きながらボソボソと話すクロードをじっと見つめ、優希はゆっくりと口を開く。
「俺は、クロードさんが大好きです」
優希は力強い言葉をクロードに投げかける。
その言葉にクロードは顔をあげ、優希を見つめた。
「誰にだって怖い物はあります。怖い物を恐いと言えるクロードさんは強い人です。普通は自分の弱点を隠しますからね。俺が見てきたクロードさんは強くて、かっこよくて優しくて、俺は本当にクロードさんが大好きです。だから、幻滅するとか変な心配はしないでください」
優希は真っ直ぐにクロードを見つめ、ニコッと笑う。
そして、クロードの手をぎゅっと握った。
「大丈夫です。俺がこうしてクロードさんの側にいます。何かあったら弟子の俺が、兄貴の俺が守ります。俺だって少しは魔法が使えるんですから」
ニコニコと笑顔で話す優希の言葉が、強張っていたクロードの体を溶かしていく。
握られた手から優希の力強さと暖かさが伝わり、クロードの表情も和らぐ。
「行きましょう」
「あぁ・・」
優希に手を引かれ、立ち止まっていたクロードも歩き始める。
(不思議だ・・・優希の言葉がこんなにも胸に響いて、力が湧いてくる・・・それに、この胸の高鳴りは何なのだ・・・)
得体の知れない感情に戸惑いを感じながら、街へと入っていった。
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