第6話 訓練開始

早々と食事を終えて、目のやり場に困るからと優希に服を着るように伝え、クローゼットへ向かう。

「ここから好きな物を勝手に着るといい」

そう言ってクローゼットを開ける。だが、優希は少しふてくされた顔をして俯く。

「ど、どうした?」

「・・・俺、勝手に着るのは悪いと思ってたんだけど、冬、寒くて開けたんだ。でも・・・」

「でも?」

「どれも大きくて・・・」

そう悔しそうに呟く優希を見て、大きな服を着て歩き回る優希を思い浮かべ、クロードは不思議と身悶えしてしまった。

(ここにあるのは、私が14、5の時の服だが、それでも大きいのか・・・可愛い・・・見てみたい・・・)

そんな変態チックな想像をしているクロードを他所に、優希はまた口を開く。

「でも・・・ごめんなさい。それでも、やっぱり寒くて、冬の間はコート借りてました。あ!ちゃんと洗濯してしまってあります」

慌てて言葉を付け加える優希の頭を、クロードはそっと撫でて、優しく微笑む。

「心配しなくていい。私が留守の間は自由に使ってくれ。シャツは腕を捲るとして、下だな・・・」

クロードはしばらく手を顎にあて考え込む。

ふっと奥の物置に着れなくなった服をいくつか閉まっておいた事を思い出し、優希を連れて物置部屋へと向かった。


ドアを開けると埃が舞う部屋の奥の窓を開け、クロードは手を翳し小さな声で呪文を唱える。

すると、優しい風が部屋の中を駆け巡り、埃を包むように巻き上げ、外へ運んでいった。

「おぉー!かっこいい!」

クロードの魔法に優希が歓喜の声を上げた。クロードはふっと笑みを溢し、箱を確認する様に伝える。

そして、2人がかりで一つ一つ箱を確認していく。

「あっ!これですか?クロードさん!」

優希が一つの箱を開いたまま、クロードの方に顔を向けると、クロードもまた、一つの箱を開けたままじっとそれを見つめていた。

優希はそっと近寄り箱を覗き込む。そこには女性物の衣装が入っていた。

「母の服だ。懐かしい・・・」

クロードは服を撫でながら呟く。その様子を見て、優希は察したのかクロードの隣に座り、背中をポンポンと優しく叩く。

「ここには、クロードさんとお母さんの思い出が詰まってるんですね」

その言葉にクロードはハッと我に帰る。優希も母親に会えず寂しいのに、思い出させてしまったのでは無いかと慌てふためく。

「もしかして、俺の心配してるんですか?」

「い、いや、あの、すまない」

「いいんです。俺、親はいませんから」

優希の言葉に宙を舞っていたクロードの手が止まる。

「俺、生まれてすぐに捨てられて、孤児院で育ったんです。だから、思い馳せる親の顔も知らないんです」

明るく答える優希にどう返したらいいのかわからず、黙ったまま優希を見つめた。

「親の顔もわからないから、特別寂しいとかは思わないです。でも、孤児院の寮母さんとか、一緒に過ごしていた子供達に会えないのは少し寂しいですね。そこでは俺が一番年上だったんだけど、もうみんな大きくなってるよなぁ」

遠い目で故郷を想う優希が愛おしく思えた。クロードは宙に浮いた手を優希の頭に乗せる。

「あっ!いくら俺の方が背が低くても、俺の方が年上なんだから子供扱いしないで下さい!」

頬を膨らませ睨んだ顔で優希はクロードを見上げる。

クロードは優しく微笑み頭を撫でた。

「年上でも、甘えたい時は甘えていいんだぞ」

「何か気に入らないな・・・はぁ、いいや、クロードさん、さっき見つけた箱にズボンが入ってました。早く着替えて練習しましょう」

優希は立ち上がり、先ほど見つけた箱の方へと歩く。

クロードも見ていた箱を閉め、立ち上がり優希の元へと歩み寄る。

そして、幾つか服を引っ張り出し、優希に1枚渡し、残りは天日干しにしようと提案した。



着替えが終わり、家の外へ出る。

「魔法は体で感じる事が大事だ。集中して自分自身のマナを感じるんだ」

クロードは片手を優希の背中に当て背筋を伸ばすように伝え、もう片手をお腹に当てる。

「体の中心に意識を持っていくと、温かいものが体を流れる感覚がわかってくる。その状態で指先や手のひらに意識を持っていき、頭の中で描くんだ」

優希は静かに深呼吸をしながら、クロードの指示に従う。

(体の中心・・お腹・・ポカポカ・・・ん・・?何かグルグルして・・これは・・)

そう思った瞬間、優希は口を抑えその場に疼くまる。

「気持ち悪い・・・」

「だ、大丈夫か?」

側にいたクロードが、慌ててしゃがみ込み、優希の顔を覗き込む。

「大丈夫・・・。何か体の中がグルグルして、乗り物酔いした時みたいにふわふわしちゃった」

「優希は飲み込みが早いな。それがマナの流れだ。何度か練習すれば慣れる。だが、今日はここまでにするか?一気に詰め込み過ぎると、体力を持っていかれる」

「ううん。少し休んだらやります」

胸を撫でながら優希は答える。

「これが出来たら、大きな火とか使えるんですよね?」

「あぁ。呪文も覚えれば、それを自在に扱える。物を熱くしたり、冷やしたり、形も変えれる様になる」

「マジかぁ・・・やっぱり異世界最高だ!それが出来たら、俺、1人でもやっていけますね!畑作ったりも出来るのかな」

これから使える魔法を想像しながら、優希はやるぞっと勢いよく立ち、練習を再開させた。

意気揚々と始める優希を見ながら、クロードはまだ優希の今後について悩んでいた。

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