第5話 変わった異世界人
世の中には不思議な事があるものだ・・・。
そう思いながら、クロードは隣で寝ている優希の寝顔を見つめる。
あの事件からここに来るのが難しくなって、しばらく離れていたが久々に訪ねて来たら異世界人の棲家になっていた。
それにしても5年・・・こんな所で、ろくに魔法も使えず1人で過ごしていたとは・・・・。
まともに食事も出来なかったために、痩せてしまったであろう頬に手を当てる。
優希の世界では、20歳が成人だと言っていたが、ならば16の歳は親に加護をもらっている歳、そんな歳にここで1人で過ごす事になるとは思ってもいなかっただろう。
クロードの脳裏に、優希の泣き顔が脳裏に思い出される。
そして、親指で優希の頬を摩り、まだ腫れぼったい瞼を摩る。
泣きつかれと喋り疲れなのか、顔を触られても起きる気配がない。
淀みのないキラキラとした目、偽りを感じさせない言葉、泣いたり笑ったりとコロコロ変わる表情、どれもクロードにとっては癒しとなっていた。
「本当に不思議だ。こんなにも心が安らぐ。こんな風に人と接したのはいつぶりだろうか・・」
クロードはそう呟きながら、優希を見つめる。
本当ならば、1、2日で帰る予定だったが、優希の「また1人になる」という言葉に言い出せずにいた。
引き伸ばしても一週間くらいしか滞在できない。
それまで、どの位の事を教えられるのだろうか・・・いっその事こと、連れて帰るか・・・そんな考えが頭をよぎるが、ダメだと頭を振る。
あそこに連れて行ったら、優希は私に幻滅するかも知れない。私は嫌われ者だ。
この赤い髪も不吉の色と蔑まされ、この目の色も人を惑わす目だと怯えられ、誰も私と目を合わせてくれない。
だが・・・優希は私の髪をかっこいいと、目を綺麗だと言ってくれた。真っ直ぐに私を見て、そう言ってくれた。
本当に不思議だ・・・知り合ってたった一日しか経っていないのに、優希に側に居て欲しいと願ってしまう・・だが、それは叶わない願い・・叶えてはいけない願いかも知れない・・・
腕にしがみ付いたまま寝ついてしまった優希を抱き寄せ、髪に頬を埋める。
温かい・・・私も人の温もりに触れたのは久しぶりだな・・・・
優希の温もりの心地良さに安堵し、クロードはそのまま眠りに落ちた。
翌日、クロードは太陽の光で目が覚める。
隣にあったはずの温もりがない事に気づき、慌てて起きると、何故か腰に布を巻いただけの全裸に近い状態の優希がベットの側に立っていた。
心臓が飛び出るくらいに驚き、ベットの上から落ちそうになるクロードの体を慌てて優希が支える。
「ごめんなさい。驚かせてしまいましたか?ちょうど起こそうと思って・・」
「あ、いや、大丈夫だ。そ、それより何故、裸なのだ?」
「早くに目が覚めたんだけど、昨日、釣り竿を垂らしたままにしていたのを思い出して、湖に行ってきたんです。そしたら、大きい魚が釣れてたんだけど、釣り上げる時に足を滑らせてしまって・・・」
「落ちたのか!?怪我は?」
クロードは優希の言葉に慌て、体をペタペタと触り怪我がないか確認する。
一通り確認し終えた後、安堵のため息を溢すが、体を触りすぎた事に気付き、慌てて謝罪した。
「大丈夫です。男同士だし、クロードさんは心配してくれただけですから」
優希はそう言って微笑み、クロードの頭を撫でる。
「な、何をする!」
急に髪を触れられ、クロードは顔を赤くする。
そんなクロードを見て、優希はニカっと笑い、今度は両手でくしゃくしゃと頭を撫で回した。
「だって、俺、クロードさんより二つも年上ですから。一応、クロードさんは身分が高い人だし、師匠なのでそこは弁えますけど、その他では俺を兄貴だと思って接してください」
得意げに片手で胸を叩くと、ふんと荒い息を吐き出す。
「わ、わかったから服を着てくれ。風邪を引くぞ」
「あ、そうそう。それで、湖に落ちちゃって服が濡れたから、今、乾かしてるんです。俺、服あまり持ってなくて、部着と体育着と制服しかないから、その三着を着回してて、ちょうど今、全部洗ったところなんです。パンツだけは一枚しかないから布を巻いてます」
「ぶ・・ぎ?体・・?」
「あ、学校で着る服の事です。いつもはお風呂に入れた日の余湯で洗濯してるんだけど、ちょうど昨日、クロードさんが湯を張ってくれたので残り湯で洗濯したんです。あ、クロードさんの服も洗いましたけど、大丈夫ですよね?」
「あ、あぁ。すまない。それにしても、そんなに早起きしたのか?」
クロードの言葉に優希は不思議そうな顔で見つめ、少し間が空いてから窓の外を指差した。
「クロードさん、もうお昼ですよ?」
お昼だと!?その言葉に慌てて外を見る。そして時計に目を向ける。なんて事だ・・・お昼まで寝るとは・・ここまで熟睡したのは初めてだ・・・
「きっと旅疲れと、俺がここにいてびっくりしたから、疲れがどっときたんじゃ無いですか?さぁ、起きてください。ちょうど魚が焼けたんです。昨日、クロードさんがパンを持って来てくれたので、サンドイッチにしました。こんな豪華な朝ご飯、ここに来て初めてなんです。お腹が空きましたから、早く起きてください」
優希はクロードの腕を引っ張り急かすと、クロードはわかったと呟き、ベットから降りた。そんなクロードの腕に絡みつき、優希は笑顔で早く早くと急かす。
優希の可愛らしい笑顔に、クロードも顔が綻ぶ。本当に不思議だ・・・
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