第3話 意外な才能
「も、もう、落ち着いたか?」
クロードに背中を摩られ、優希は鼻をズビズビ啜りながら返事をする。
この世界に来て初めて泣いた。
1人の時は泣いたら余計に寂しくなるから、泣くのを我慢していた。
久しぶりに沢山泣いた優希の目は腫れ、あまり開かなくなっていたが、心は晴れやかだった。
「ずびばせん・・」
「い、いや、今まで我慢していたのが、溢れ出たんだろう。ほ、ほら、スープが冷めてしまった。少し温めよう」
そう言って、スープの上に手をかざすと、キラキラした光が注がれ、スープからほんのり湯気が出た。
「おぉー!クロードさん、凄い!」
初めて目の当たりにする本場の魔法に、優希は開きにくい目をめいいっぱい広げ、喜ぶ。
「そんな大した魔法ではない。君は使えないのか?」
クロードの問いに、優希は少し口を尖らす。
「君じゃなくて、名前呼んでください。俺、人に名前呼ばれるのも久しぶりなんです」
「あ・・すまない。ゆ、優希殿・・で良いか?」
「優希でいいです。俺は多分年下だし、貴族とかでも無いので、殿とか入りません」
「そ、そうか」
ハキハキと答える優希に、やはりクロードはビクビクする。
「俺は、ここに来てから練習しました。ここの文字は読めないので絵図を見て、見よう見まねで練習したので、これくらいしか出来ません」
クロードの目の前で人差し指を立てると、ポッと蝋燭程度の火を灯す。
それから、側にあったグラスに手をかざし、チョロチョロと水を出して見せたり、小さな突風を出して見せたりした。
「君は・・・あ、優希は色んな属性を持っているのだな」
クロードの言葉に優希は首を傾げる。
「普通は使えないんですか?」
「そうだな。ここでは大体1人一属性だ。風、火、水、地、この4種のどちらかだ。多属性を持つのは皇族と、一部の貴族のみだ」
「でも、俺、こんなチョロチョロですよ?これで多属性と言えるんでしょうか?」
優希はそう言いながら、再度目の前で人差し指を立て、火を灯す。
「驚いた・・多属性も理解しているのか」
「それは、俺の世界でその類の本や漫画を沢山読んでいたから・・」
「漫画とは・・・?それより、そちらの世界でも魔法の本があるのか・・」
「いや・・・魔法の本と言うより、魔法の物語です」
「も、物語・・・」
優希は恥ずかしそうに頭を掻きながら、優希の世界ではその物語が流行っており、優希自身、魔法の物語や異世界の物語が好きだと告げる。
そして、その物語の知識があったから、読めない本の絵図を見て、何となく想像が出来て練習しているうちに使えるようになったと説明した。
「君は・・あ、優希はきっと正しい知識を学んで、訓練すれば大きな力が使えるようになるはずだ。だが、あまり口外できないな」
「どうしてですか?」
「力があると知られれば、王宮へ連れて行かれて、護衛隊に入隊させられた挙句、 戦場へ駆り出されるかもしれん」
「うわぁ・・・それは嫌です。ここにきた時は勇者とかに憧れはしたけど、この、のんびり暮らしが定着しちゃったから、今更行きたくないな。俺も、もう若くないし・・・」
優希はそういいながら、スープを口に含む。
久しぶりの味の付いた食べ物、そして根野菜、何より肉が優希の弱った体に染み渡り、デロデロに顔が歪む。
「クロードさん・・めちゃ美味いです。あぁ・・俺、生きてて良かった」
歯ごたえのある食事に舌鼓みを打ちながら、何度もうまいと繰り返す。
「く、口に合って良かった。食事が済んだら風呂を沸かしてやろう」
「風呂ですか!?もしかして、クロードさん、ババっとお水が出せて、そのお水をさっきみたいに一瞬で温められるんですか?」
「え、あ、あぁ。ババっとがよくわからんが、普通にバスタブに貯めれるくらいは出せる」
「おぉー!クロードさん、最高!俺、チョロチョロしか出せないから三日に一度しか入れなかったんです。少しずつ貯めて、半分溜まったら半日かけて温めるんです!」
「そ、そんな苦労をしてたのか・・・」
「クロードさん、マジ、サイコーです!良かったら一緒に入りませんか?」
胸の前で親指を立てて、最高だと合図しながらクロードに問うが、遠慮しておくとどん引された。
やはり貴族は、他の人と入らないんだな。待女もいないのにクロードはお風呂に入れるのかと心配になったが、久しぶりにゆったり風呂に入れる事に歓喜した。
そして、早々と食事を終え、風呂の準備を見学させて欲しいとクロードに頼み込み、その様子を目をキラキラさせながら優希は見つめた。
やっと異世界に来た実感が湧いてきた。これこそ、まさに異世界!
貴族に魔法に、恐らくクロードの腰に付いているのは剣!
きっとクロードは、立派な貴族で騎士なのかも知れない。
優希の妄想は膨らむばかりだった。
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