第2話 1人じゃない

(あ〜何か気持ちいいなぁ。冷んやりもするし、ポカポカもする・・不思議だ、このまま身を委ねて寝てたい気がする・・あー、でも、釣竿回収に行かなきゃ・・釣れてるといいなぁ・・早く起きなきゃ・・そう、起きないと家の主に・・はっ!家の主!)

急に意識を取り戻し、勢い良く体を起こすと、その拍子にゴツンとおでこに痛みが走る。

「いてーっ!」

おでこを手で押さえながら悶えるていると、ふと、横に同じ格好で悶える男の姿を見つけた。

「ひぃっ!」

優希の声に男は体をびくつかせるが、優希はすぐさま体制を変えて、ベットの上で土下座する。

「すみませんでした!俺、ずっと空き家だと思って勝手に住み着いてました!」

優希の態度に男は更に体をビクつかせるが、そっと祐希の背中に手を置き、ポンポンと叩く。

「君・・名前は何と言う?ここにはどうして・・?」

優しい手付きと声に安堵して顔を上げると、優希を見下ろすキラリと光ったシルバーの瞳と目が合う。

その綺麗さに、一瞬言葉を失うが、すぐに我に返り、優希は口を開いた。

「俺、日野優希って言います。あの、信じてもらえないと思いますが、俺、こことは違う世界から来ました。あ、いや、自分から来たのではなく、気がついたらここに来てて、行く宛ても住む所もなくて、森を出ようにも獣とかいたら怖いし、偶然ここを見つけて、人の気配も無かったから、数日だけと思いながら、5年も住み着いてました!」

「ご、5年もここに1人でいたのか?」

「はい・・」

「なるほど・・こんな森でろくに食べる物も得られなかっただろう。だから、体が弱っていたんだな・・」

細すぎる・・と呟きながら、背中を摩る。その温かさが、何だか胸を熱くする。

「あ、あの・・あなたは?」

「・・・クロード、とだけ名乗っておこう」

そう言いながら、フードを取ると束ねた赤髪がサラッと落ち、揺れる。

「綺麗な赤だな・・」

優希の言葉にクロードは固まる。

「それに、顔も整っているし、目もビー玉みたいで綺麗だ!クロードさんは、貴族さんですか?こんな綺麗な庶民ってどの本にも載ってない。登場人物って言って良いほどかっこいい!」

「わ、私はカッコよくなどない。そ、それに、本とか、登場人物とか何を言っているんだ?」

優希の次から次へと出る言葉に、クロードはしどろもどろになる。

その態度を不思議に思いながら、優希はじっとクロードを見つめる。

「そ、それより、君、お腹は空いてないか?」

「・・・少し」

「そ、そうか。ここに来る途中で食べ物を買ってきたんだ。久しく肉を食べてないだろ?」

「え!?肉があるんですか!?」

目をキラキラさせて、優希はクロードの話に飛び付く。

そんな優希の態度に、、クロードはまた体をびくつかせた。

「き、君が倒れた原因は栄養が足りて無いからだ。簡単な物だがスープを作って置いた。大丈夫なら、起きて一緒に食べよう」

クロードは立ち上がりながら手を差し伸べると、優希はその手を取り、ベットから降りながらぼそっと呟く。

「クロードさんは、優しいですね」

「えっ!?い、いや、優しくないと思うぞ。そ、それに・・綺麗でも、かっこよくも無い・・君こそ、私なんかの手を取ってくれるし、目も合わせて話してくれる・・君は優しい・・」

俯きながら呟くクロードを見て、凄く自己評価が低い人なんだなと思いながらテーブルへと向かう。

テキパキと皿を出して食事を並べるクロードの姿が、本当にこの家の持ち主なんだと物語る。テーブルには温かいスープとパンが並べられ、スプーンを手渡され、向かい側にクロード座る。

「さ、さあ、食べて。口に合うといいんだが・・」

「・・・あの・・」

「ど、どうした?やはり、私の料理では嫌か?」

「いえ!そんな事は無いです!凄く美味しそうです」

クロードの顔を見つめ即答すると、クロードは小さく安堵のため息をついた。

それを見た優希は、ゆっくり俯く。

心配したクロードは優希の顔を覗き込み、どうしたのかと尋ねる。

「あの・・勝手に住み込んですみませんでした。クロードさんが戻ってきたから、俺、出て行った方がいいですよね?」

「・・・その事か・・いや、出ていかなくても良い。私も色々あって、長らく来ていなかったし、少しここで休息する予定だが、いずれは帰らないといけない。君は、ここを大事に使ってくれてた様だし、この世界の住民でないのであれば、行く所もないだろう?」

「信じてくれるんですか?」

「君が寝込んでいる間、家の中を見て回ったんだが、見慣れない服や、鞄、それに靴などを見ていると、君が別の世界から来たと言う事がわかる」

「・・・・」

「1人で遠い地に来て、誰とも会えず、よく頑張って生きてきたな」

その言葉を聞いた瞬間、頬に熱い物が伝う。

「えっ!?ど、どうした?どこか痛いのか?」

クロード慌てた声に、優希はそっと頬を触ると、涙が幾度となく溢れ出ているのに気付く。

そうか・・俺、やっぱり寂しかったんだ・・そう実感すると、胸の中からどっと押し寄せる黒い感情が一気に流れ出し、声を上げて泣いた。

クロードは、慌てふためきながら優希の側に駆け寄り、背中を摩る。

久しぶりの人の温もり、優しい声、ずっとずっと恋しかった物だ。

もしかすると、この世界には俺しかいないのかも知れないと思い始めていた。

長い間、ずっとこの場所にいても、誰も訪れなかった。

ずっと不安で、怖くてたまらなかった。

俺、1人じゃなかった・・頑張って生きてて良かった・・胸のつかえが取れたら、今度は安堵から涙が止まらなかった・・・。

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