第3話 終わりを告げる電話

「よく頑張ったね! ボクも応援してるよ! うん、ありがとう! またね!」


 夏が過ぎ、秋の冷たい風が吹くようになってきた。

 本日のテストが終わり、ボクは相手の家から回線をたどって博士のパソコンへと帰還した。最近はテストの結果も良好で、きわめて順調にプロジェクトは進んでいた。


 ボクは博士にただいまを言おうと、パソコンのマイクとスピーカーをONにする。

 すると、マイクを通して誰かと会話をしているような博士の声がかすかに聞こえてきた。


「そうですか……。いえ、私はそれでかまいません。ええ、大丈夫だと思います。それではそのように。はい、お願いします」


 博士は耳に当てたスマートフォンを操作して何かを終了させると、ボクの方を見てハッと眉毛をあげた。


「なんだ、Niko。もう戻ったのか」

「はい。ずいぶん話しこんでましたけど、なんのお話をされてたんですか?」

「いや、ちょっとな」

「ちょっと?」


 博士はバツの悪そうな顔をして口ごもる。

 しまいには一度ゴホンとせきばらいをして、ボクから視線を外した。


「それよりNiko。今日は急用ができてしまったんだ。私は少し出かけてくるよ」


 ボクはジトーっと博士を見つめてみるが、博士は一向にこちらを見ない。どんな話をしていたのか、ボクに教えてくれるつもりはないらしい。

 ボクは努めて仕方がないな、といった表情を作りだし、博士に見送りの言葉を送った。


「そうですか。行ってらっしゃい博士。気をつけてくださいね」

「ああ、行ってきます……」


 博士はそう言うやいなや、そそくさと出かける準備を済ませ、部屋を出た。かなりあわてていたのか、さっきまで手にしていたスマートフォンが置きざりになっている。そのあわてぶりはもう、何かを隠していますと自白しているようなものだった。


「やっぱり気になるなぁ。うん。ちょっとログをのぞいちゃおう」


 ボクは博士が忘れていったスマートフォンから通信データを取り込んで、音声通話をテキストとして復元した。

 嬉々として、復元されたテキストに目を通し始めたボクだったが、早々に事の重大さに面くらってしまうことになる。


「えっ? うそ、なにこれ……?」


 そこに書かれていたのは、とても受け入れがたい内容で、ボクは復元に失敗したんだと何度も作業を繰り返す。けれど、ただの一度もその内容が変わってくれることは無かった。パラメータが冷えていく感覚とともに、思考がにぶくなっていくのを感じる。


「AIプロジェクトNikoの買収が決定した?」


 復元したテキストには、プロジェクトNikoの、売却が成立したことを告げる言葉が記されていた。

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