第2話 採掘と運搬と鞄パンパン
俺は坂本タツヤ。
なんやかんやあって、異世界でお姫様の宮を造ることになった。
設計図も無事につくり終わって、今日からは採掘作業だ。
「お兄ちゃんってば、まだそれだけしか採掘できてないの? ダッサーい」
さすがに、ゲームとまったく同じとはいかないけれど、もとの世界では考えられないくらいの速さで、材料となる石が集まっている。
「こんな調子だと、いつまでたっても終わらないよー?」
朝から作業を始めたけれど、まだまだ体力は余裕だ。
「あれぇ? 昨日言ってたすぐに終わらせるって話、嘘だったのぉ? そうだよねぇ、明らかに引きこもりっぽいお兄ちゃんに、採掘なんてできるはずないもんねー」
それに、ツルハシやらハンマーやらの道具に、「一定回数使うと壊れる」という設定もない。
「ざぁこ♡、ざぁこ♡、ざこお兄ちゃん♡、メンタルよわよわ♡」
ただ、目下の問題は神官っぽい青年からもらった、材料を運ぶための魔法の鞄的なアイテムの許容量が少なくて作業が進めづらいことと──
「本当は実力者なのに仲間から追放されたけど、母性のある年下の女の子にいい子いい子してもらって、スローライフしながら立ち直る系のお話の主人公に、感情移入してそう♡」
──このメスガキ属性の姫が、逐一煽りにくることだ。
「誰がするか! 俺はな、年下の姉的な黒髪美少女に「仕方ないわね」って言われながら協力してもらって、世界に復讐する系の話の主人公に感情移入するんだよ!」
「えー? どっちだって、同じでしょ?」
「断じて違う! こっちはもっとニヒルでデカダンスなんだよ!」
「キャハハ、ムキになっちゃって、器ちっさ♡」
今日も小さな口から、八重歯と共に煽り文句がこぼれる。
本当に、黙ってればただの美少女なのに。
「あれぇ? 黙り込んじゃって、どうしたのぉ? ひょっとして、今日もアタシの可愛さに見惚れちゃった?」
「うるさい。というか、採掘現場は危ないから近寄るなよ」
「えー、気がついたらいつも鞄パンパンお兄ちゃんでも平気な仕事場なら、アタシがいたって危なくないでしょー?」
「誰が気がついたらいつも鞄パンパンお兄ちゃんだ、失礼な」
たしかに、気がつくと何某かの書類で鞄パンパンになってて、今まさに鞄のパンパンさに困ってるけれど。
「ともかく、本当に危ないから帰れよ。お前の身に何かあったら、王様とお妃様とか国民たちが怒り悲しむだろ?」
「……ま、このタイミングだと、そうかもね」
うん?
なんかまた、表情が曇ったような?
「……なら、これ使ってさっさと面倒な作業終わらせてよね! みんな待ってるんだから!」
「うわっ!?」
「キャハハ、お兄ちゃんやっぱり、キャッチだけはうまーい! それ以外は下手っぴ!」
「コラ! だから、危ないからビンは投げるなって言っただろ!!」
「うるさーい。じゃあ、私は帰るから、バイバーイ」
手をヒラヒラと振りながら、姫は採掘現場から去っていった。手の中に残ったビンには子供っぽい字で、「鞄パンパンお兄ちゃん用、鞄広げ薬」と書いてある。
……とりあえず、また煽りに来られたら危ないし、この薬を使って採掘と運搬を今日中に終わらせてしまおう。
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