クラフト系サンドボックスゲームで遊びつくしていた俺が異世界で、メスガキお姫様の宮を造ることになった話

鯨井イルカ

第1話 クラフト系サンドボックスゲーマーとメスガキ系の姫

 俺の名は坂本タツヤ。

 クラフト系サンドボックスゲームに日夜心血を注いでいた、どこにでもいる社畜から異世界に転移しちゃった系男子だ。そして、御多分にもれず、転移前にのめり込んでいたゲームの能力を使えたりする。


 そんな俺が異世界に呼ばれたのは、ここのお姫様のために、宮、つまり宮殿を作るためだ。


「わー、お兄ちゃんてば、自分の立場分かってないのぉ?」


 今まで作ってきた建築物たちより、ずっとシンプルなものでいいらしい。


「アタシの宮、さっさと造ってよ」


 しかも、素材につかう石は、建設予定地すぐ近くの崖から、大量に採掘できる。


「あれぇ? ひょっとして、本当はできないのかなぁ? そうだよねぇ、こんなひ弱そうなお兄ちゃんに、宮を造るなんてできるわけないもんねぇ」


 この作業小屋もゲームと同じくらいのスピードで造れたし、宮殿も同じくらいで造れるはずだ。


「ざぁこ♡、ざぁこ♡、ざこお兄ちゃん♡、足腰よわよわ♡」


 それが終わったら元の世界に帰れるらしいけど、折角ならもう少しこの世界を冒険したい──


「ライスに甘辛く煮た牛肉と、チーズと、ゆるく茹でた玉子乗せて食べてそう♡」


 ──ただし、このメスガキ属性の姫とは、二度と関わらずに。


「食べてねーよ! 俺は大盛りねぎだくギョク派だ!」


 怒鳴りながら振り返ると、金髪ボブカットでピンクのドレスを着た姫が、ニヤついた笑みを浮かべていた。


「えー? どっちだって、同じでしょ?」


「断じて違う! こっちはもっと硬派でストイックなんだよ!」


「キャハハ、ムキになっちゃって、器ちっさ♡」


 小さな口から、八重歯と共に煽り文句がこぼれる。

 本当にこいつは……、見た目だけなら超絶美少女なのに……。


「あれぇ? 黙り込んじゃって、どうしたのぉ? ひょっとして、アタシの可愛さに見惚れちゃった?」


「うるさい。というか、邪魔しに来るなよ」


「えー、作業放り投げてお絵描きしてるサボサボお兄ちゃんに、そんなこと言われたくなーい」


「だ、誰がサボサボお兄ちゃんだ、失敬な。今はな、設計図を書いてるんだよ」


 たしかに、神官っぽい青年からもらった夕食を食べてから、なんか胃の辺りの調子が悪くて、少し手が止まってたけれど。


「ふーん、せっけーず?」


「そう。それが終われば、すぐに作業にとりかかるから、黙っててくれ」


「ふーん、そう。すぐに、ね……」

 

 うん?

 なんかいきなり、表情が曇ったような?


「……なら、これ飲んでさっさと完成させてよね! みんな待ってるんだから!」


「うわっ!?」


「キャハハ、ざこお兄ちゃんのくせにナイスキャッチ!」


「コラ! ビンなんか投げたら危ないだろ!?」


「うるさーい。じゃあ、私は帰るから、バイバーイ」


 手をヒラヒラと振りながら、姫は作業小屋を出ていった。手の中に残ったビンには子供っぽい字で、「お腹よわよわお兄ちゃん用のお薬」と書いてある。



 ……これ以上煽られるのも嫌だし、薬を飲んでさっさと設計図を作り上げるとしよう。

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