五日目

 念の為に、今日までは安静にしているって父ちゃんと約束しちまったから。

 俺は仕方なく、学校を休んでベッドの上でゴロゴロとしていた。


歌詩うたし、大丈夫?気持ち悪いとか頭痛いとか、無い?」


 母ちゃんが1時間毎に俺の様子を見に来ては、元気な俺の顔を見て安心したように笑う。


(母ちゃん、こんなに心配性だったっけか?)


 母ちゃんが様子を見に来る度に、腹の底がゾワゾワするような感覚。

 母ちゃんが笑顔になってくれるのは、本心から嬉しい。嬉しいけれども。


(なんだろうな?この感覚・・・・)


 母ちゃんが作ってくれた昼飯を食って、流石にもう眠れないと部屋から出てリビングへ行くと、やっぱり母ちゃんは嬉しそうに笑う。

 そう言えば、母ちゃんとこんなに一緒の時間を過ごしたのは久しぶりかもしれない、なんて思いながら、母ちゃんが晩飯を作る手伝いをした。



『あと2日だなっ!』

『オレ、今から楽しみで眠れねぇよ!』

『バカ、ちゃんと寝とけ!』

『そうだそうだ、当日眠くて観られなくなるぞ?!』


 飯を食い終わってスマホを見ると、グループメッセージ上でこんなやりとりがされていた。


『うん、ほんとに楽しみだね!』


 俺の指がまた、勝手にメッセージを打ち込み、送信ボタンをタップする。


歌詩うたし、明日は学校来られそうか?』

『もう大丈夫か?』

『暇してないか?』

『今日のノートは、取っておいたからな!』


 途端に、次々とメッセージが送られてくる。


(アイツら・・・・)


『みんな、ありがとう!僕は全く問題ないよ。だから、明日は学校に行く。また、明日ね!』


 ベッドの中からメッセージを送信し、スマホを枕元に置いて目を閉じる。

 でも、昼間に寝すぎたせいか、なかなか寝付けない。

 そんな状態だったからか。


(でも俺、なんであの時、倒れたんだろ?)


 ふと、疑問が浮かんだ。


(あの三叉路・・・・)


 思い出しただけで、腹の底のゾワゾワが大きく膨らむ。

 脳の記憶ではなくて、感覚の記憶の中で奥の芯から震えが走る。


(あそこで何か、あったか?)


 あの時。

 俺の体はワナワナ震え出して、冷や汗が止まらなくなった。

 何もなくて、体がそんな反応をする事なんか、あるのだろうか?


(一体、なにが)


 考えながらウトウトしかけた時。


“余計な事は、考えないほうがいいよ”


「えっ?!」


 聞き覚えのある声が耳元で聞こえたような気がして、俺は飛び起きた。

 もちろん、部屋の中にいるのは、俺だけだ。


(また、おかしな夢でも見たのか?)


 軽く頭を振って、もう一度ベッドに入り目を閉じる。

 そのまま俺は、ストンと眠りに落ちたようだった。

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