四日目

『総集編、やるらしいぞっ!』


 仲のいいクラスメイトとのグループメッセージでそんな情報が飛び交い、その中の1人のメンバーの家に集まって、あの話題のドラマの最終回の復習のために、みんなで一緒に総集編を観ることになった。


 日曜日の午後。

 男ばかりが5人も集まって何をしているんだ?!とも思うが。

 あのドラマの最終回を心ゆくまで楽しむには、必要不可欠とも言えるだろう。

 まぁ。

 今時は【見逃し配信】だってあるし、なんならディスクに録画しておけば、いつだって繰り返し観ることはできるけど、でもやっぱり【オンタイム】かつ【みんなと一緒に】というのが、盛り上がりのキーワードであることは間違いない。

 そんな、ワクワク感がいやが上にも上がり続ける中。


「やべっ、コーラ買い忘れたっ」


 と、素っ頓狂な声が上がった。

 ここに集まった俺以外の4人は、確実に俺のクラスメイトだし、仲がいい奴らばかりだ。

 少なくとも、俺の脳の記憶はそう言っている。

 けれども。

 俺の感覚の記憶は、この時居心地の悪さMAXを迎えていた。

 だから、真っ先に俺は声を上げた。


「じゃ、僕買ってくるよ!」


 そしてそのまま、クラスメイト宅を飛び出す。

 近くにコンビニがあることは分かっていたから、そのコンビニでペットボトルのコーラを購入。その間、ものの10分ほど。

 早く戻らないと総集編が始まってしまうし、俺の中に早く戻りたいという気持があることにも気づいてはいたが、戻りたくない、という感覚がその気持ちを上回った俺は、クラスメイト宅とは反対方向へと歩き出した。

 人通りも少ないこの道を大回りして少し気持ちを落ち着けて、総集編が始まったくらいの時間に戻れば、すぐドラマにも集中できるし、このイヤな感覚も忘れられるだろうと、足を踏み入れた三叉路の交差点。


(な・・・・んだっ?!)


 俺の足はピタリと止まった。

 直後に、ワナワナと全身が震え出し、冷や汗が噴き出してくる。

 景色がゆっくりと右回りに回転した直後、左の頭に強い衝撃を感じ、俺は自分が倒れた事を理解した。


(あ~・・・・コーラ、これ開けたとたんに吹き出すやつ)


 そんなことを思いながら。




(あれっ?ここは・・・・?)


 ゆっくりと開けた目に飛び込んできたのは、見慣れない白い天井。

 その直後。


歌詩うたしっ・・・・歌詩うたしっ?!」

「あぁ、よかった。気が付いたか」


 母ちゃんと父ちゃんの泣き笑いの顔が視界に入り込む。


「えっと、僕・・・・」


 状況が理解できずに困惑する俺に、母ちゃんがざっと説明してくれたところによると、俺はあのドラマの総集編を観に集まったクラスメイト宅からひとりでコーラを買いに行くと行ったまま戻らず、探しに出かけたクラスメイトによって、倒れていた所を発見されたとのこと。そのまま救急車で病院に運ばれて、今ここにいる。そんな感じらしい。


「もう、帰っても大丈夫だそうだ」


 母ちゃんが俺に説明をしている間に、父ちゃんは医者と話をし、事務手続きを済ませていた。


「念の為に、明日までは安静にしていなきゃダメだぞ?」

「うん、わかった」


 俺が頷くと、父ちゃんは安心したように笑って、俺の頭をクシャクシャと撫でる。

 それを見ながら、母ちゃんはそっと、ハンカチで目元を拭っていた。


(ごめんな、心配かけて)


 罪悪感に、胸がズキッと痛んだ。

 こんな痛みは初めてなんじゃないかと思うほどに。



 家に帰ってスマホを見ると。


歌詩うたし、大丈夫かっ?!』

『帰ったら絶対に連絡くれよ!』

『ごめんな、コーラ買い忘れたせいで』

『オレたちもみんな総集編観てないから、安心しろ!』


 こんなグループメッセージが入っていた。


『今帰ったよ。何にも問題ないって。ごめん、心配かけて。それから、せっかくの総集編鑑賞会、台無しにしちゃって。コーラのせいじゃないから、気にしないでよ。僕の方が申し訳なくなっちゃうからさ』


 指が勝手にメッセージを打ち込み、送信ボタンをタップする。


(総集編、観たかったな・・・・アイツらと一緒に)


 送信したメッセージの違和感は拭えなかったものの、思いは同じ。

 心からそう思いながら、俺はベッドの中で目を閉じた。

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