三日目

 朝。

 顔を洗って、鏡を見る。

 そこに俺は、ふと、とてつもない違和感を覚えた。


(俺の顔って、こんなだったか?!)


 鏡を見ながら、両手であちこち顔を触ってみるが、触っている手の感覚には、全く違和感がない。


 と。


 鏡の中に、父ちゃんが映り込んできた。


「なんだなんだ?お肌が気になるお年頃か?」

「ちっ、ちがうよっ!」


 揶揄からかうように笑う父ちゃんに、恥ずかしくなって鏡から離れるが・・・・


(俺の父ちゃん、こんな穏やかだったっけか?)


 そう思ったとたんに、腹の底がゾワゾワとし始める。


(だめだ、ちょっと気分転換でもしねぇと)


「なんだ、歌詩うたし。でかけるのか?」

「うん。ちょっと散歩。公園ブラブラしてくるよ」

「そうか。気をつけるんだぞ」


 父ちゃんの何気ない言葉に、なぜが一瞬、心臓がドクンと跳ねた気がした。

 何ということのない、言葉のはずなのに。


「うん、行ってきます!」


 耐え難いくらいの違和感に、俺はそそくさと家を出て、公園へと向かった。


 何を考えなくても、いや、どれだけ思考の中に沈んでいても、足は勝手に動き続けて、気づけば俺は気持ちのいい広々とした公園に着いていた。

 土曜日の午前中。

 陽の光は眩しいながらも、気温がそれほど高くはないせいか、公園内の人の姿はまばらだ。

 足の動くに任せて公園内を歩き、辿り着いたベンチに腰を下ろす。

 いつも座っているベンチ。

 見慣れた景色。

 でも。

 俺の感覚は、違和感を訴え続けている。


(ほんとに、なんなんだよ、一体・・・・?)


 クローゼットにあった私服を、手が勝手に選んで着替えてきたわけだが、正直、どれも俺の好みではない。

 サイズはピッタリで着心地は抜群だが。

 おまけに、腹の底のゾワゾワは膨らみ続けるばかりで、俺は気を逸らすべくスマホを取り出し、あのドラマについて検索を始めた。


『あれ、犯人は隣の家の新妻だと思う!』

『いやいや、最初に死んだ奴が実は生きてて犯人とか、そんな展開じゃね?』

『支え続けてる家族が一番怪しいよ。アリエナイ人が犯人って、鉄板でしょ』


 ネット上では、4日後に迫った最終回に向けて、相変わらずの盛り上がりを見せている。


『いや、どう考えても主人公だろ』


 そう書き込もうとして、数日前に全く同じ内容の書き込みがされていることに、俺は気づいた。

 そのアカウントは俺の記憶-脳の記憶-には無いアカウントのはずなのに、何故かとてつもない懐かしさを感じた。

 と同時に突然、スマホ画面がブラックアウト。


(そーいや、充電してなかったな・・・・)


 ふぅ、と溜息をひとつ。

 俺はベンチから立ち上がると、家に向かって歩き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る