最終話 こぼれ桜

「話したいことは山ほどあるんだ。が、何から話してよいか」


『いいのよ』


「なかなかことばに出来なくてね」


『あいにきてくれただけで』


「毎日でも会いたかった」


『わかってた。……ありがとう』


はらはらと舞う君の欠片たちが、ぼくの指からすり抜けるようにおちていく。



「本当はもう、君を繋ぎとめる言葉が見つからないんだ」


『いいの、わたしではあなたをみたせないもの』


貌を無くしてしまいそうなそれを、ぼくは美しいなと想う。


君を前にことばが出ないのは、

君に届かないと分かっているから。





『さようなら』


満月の夜、

散りゆく桜のように君が笑った。



……了

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恋慕「君に綴る想い」 麻生 凪 @2951

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