2.斜面崩壊現場救援

1

Micro

Seed

Opereating

System


MSOS Ver.9B-PPファンタズマ・ヴァージョン


Booting now...


 正面ディスプレイが青く輝き、その上を滑る赤文字が機体OSの起動中であることを示す。

 

Main system mode:Combat

Wapon safe systems:Clean

Manupilate moving model:Ordinary


WALKER BRADE:Nealsen


AI System Message:"READY NOW."


 二脚型ウォーカー・ブレード〈ニールセン〉のAIが正常作動。それに伴い、火器管制機構F.C.Sおよび機体移動周辺システムが発動する。機体を載せたトレーラーが停車し、俺はニールセンを降ろして武装を装着させる。右腕に30ミリ携行機関砲〈リザードキラー〉、左腕にはレーザー照射装置〈月光ムーン・ライト〉。

 アルテリア地区では、土砂災害による被害が拡大していた。移動中に得た情報によると、死者は600人を越している。

「エディ、作戦領域の詳細は」

 トレーラーの運転手に通信を入れる。

〈知っての通り、土砂崩れの被害が広範囲に及んでいるわ。他のCES所属機体が到着しているのと、両企業からの即応部隊が作業中。それと、所属不明の機体群が間もなく到着する〉

「所属不明機だと」

〈死肉漁りに来た傭兵崩れの連中かもしれない。警戒したほうがいい〉

「了解だ」

 膝立ち姿勢だった機体を直立させ、携行機関砲を背部に移動させる。無線周波数を救援部隊のものに合わせ、本部へと到着の報告を入れる。

「救援部隊本部、聞こえるか」

〈......こちら本部。貴官の所属を述べよ〉

「CES所属の白井裕斗だ。登録機体名はニールセン」

〈照会完了。君は北部地区の瓦礫の撤去を頼む〉

「了解だ」

 機体を低速歩行モードに設定し、駐機場からアルテリア北部地区へ移動する。最も被害が大きかった場所であり、救援部隊の三分の一が回されている場所だった。

 土砂と大型ソーラーパネルの残骸が混ざり合い、窪地の中央に建造された生活用区へと流れ込んでいた。建材はいとも容易く破壊され、そこに住んでいた人々の生活を容赦なく呑み込んでいた。ウォーカー・ブレードのマニュピレータで鋭いパネルの破片を引き抜くと、室内に破壊された家具が見えた。

〈そこからは人の手でやる。別の場所で瓦礫を除けてくれ〉

 パワードスーツを着用した作業員がパネルを除いた場所へ上り、土砂をかき分け始める。そのパワードスーツの外装には、ストーム社のマークが記されていた。企業による災害発生時の迅速な行動は、その企業がレイヤードネストの住民にどれほど寄り沿っているかをアピールできる。

 ソーラーパネルの周囲に配置する巨大な電源タワーを除けると、数台の自家用車が下敷きになっていた。

「誰か、こっちだ。パワードスーツを寄越してくれ」

〈なにがあった〉

「車だ。5台はある」

〈今は空いていない。貴官の機体で除けられないか?〉

「......やってみよう」

 マニュピレータを物品移送モードに移行させ、持ち上げる対象と再設置場所を設定。腰を屈めた姿勢を取る。腰部ユニットへの加圧進行度が増加するが、両腕で小型の自家用車を持ち上げる。生体センサーで内部を走査。無人であることを確認し、斜め後ろの再設置場所へ置く。

〈できたか〉

「一台だけならな」

 二台目の移動に取り掛かろうとしたとき、遥か遠方で爆発が起こった。ニールセンの頭部センサーが自動的に高精度索敵モードに設定され、爆発のあった場所を探る。

 第一生活用区中心部にて、高く立ち上る黒煙。青い二機のウォーカー・ブレードが、その周囲で跳躍していた。その手には不揃いな兵器が握られていた。片方は携行機関砲、もう片方は57ミリ杭打ち機パイル・ストライカ。二機は周囲で作業中のウォーカー・ブレードや重機を破壊している。

〈裕斗、聞こえる!?〉

「ああ、敵襲だな」

〈その近くで武装しているのはあなた一人よ。すぐに迎撃して〉

「了解だ。救援部隊本部、聞こえるか」

〈ああ、聞いていた。敵の正体は不明だ、頼んだぞ〉

 30ミリ携行機関砲を背部から右手に移動させ、背部推進器を吹かして跳躍。機体AIが周囲の路面状況を分析し、射程圏内へ最も早く辿り着けるルートを割り出す。瓦礫を踏みつけて敵の死角から接近し、機関砲を所持した機体に弾道表示が重なる。それが射撃可能状態になると同時に引き金を絞り、30ミリ砲弾を敵機に浴びせる。連射した10発の内、6発が着弾。それ以外は敵機の青い装甲にダメージを与えることなく飛び去る。

 敵機の駆動系の破壊に成功。力なく地面に落下した敵機に向け、左腕の月光ムーン・ライトを起動。青白い高出力レーザーの刃を右下から左上へ、反転させた逆袈裟斬りの要領で振り抜く。正確にコクピットを捉えた攻撃が命中し、敵機が両断された。

「一機撃破!」

 もう一機がこちらを向く。57ミリ杭打ち機パイル・ストライカの撃針ユニットが撃発位置に移動するのが見えた。

 Enemy type:ALVAS INDUSTRIAL SA-77"RUIN" Custizemed model.

 敵機の分析が完了。アルヴァス・インダストリアル社製ウォーカー・ブレードSA-77〈ルーン〉の改造機。本来であれば両肩に存在するはずの可動式防盾が見当たらず、装甲各部にも補修跡が目立っていた。

 敵が前方へ高速移動。自機の加速を付加した杭打ち機パイル・ストライカの一撃。射突用装薬を収めた薬莢ケースが側面の排莢口イジェクション・ポートから吐き出される。

 紙一重でその攻撃を避け、左脚で敵機の胸部あたりを蹴り飛ばす。装甲が大きくたわみ、僅かに距離が生まれる。

 バックブーストでさらに離れ、機関砲の照準を走らせる。しかし、敵機背面に追加されていたスライド・ブースターが火を噴く。

 照準から外れ、杭打ち器パイル・ストライカの追撃が襲ってくる。57ミリの攻撃が左腕に命中。フレームがすさまじい音を立てて粉砕され、左腕全体が弾き飛ばされる。

「!!」

 機体の重量バランスが一気に崩れ、着地と同時に機体が深く沈み込む。そこへ杭打ち器パイル・ストライカの追撃。

 機体を擦るように横へブースト移動し、辛うじて回避。

「うおおおおおおっ!」

 受け身を取るように機体を回転させ、背面を打ち付けるように停止したところで機関砲をフルオートで射撃。敵機の装甲に次々と弾痕が穿たれる。

 コクピット・シェルを破壊された敵機は小爆発を繰り返しつつ倒れ込む。

 自機のコクピット内では、ダメージ累積警告が鳴り響いていた。

〈生きてる?〉

 エディからの通信が入った。吐き気を堪えつつ、俺は無事であることを伝える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る