第4話 青年と少女

 鵺。魑魅魍魎と妖怪と霊は互いに食い合い、キメラとなり、この霊山の気にあてられ混ざったのだろう。猿の顔で虎の体をし、尾は蛇で巨躯なそれは「ヒョウヒョウ」と鳴いたかと思うと、大地に突っ込んでいった。


「大地!」


 咲は何も見えていない大地の服を力強く引っ張り、岩から引きずり下ろした。

 鵺は岩にぶつかり、御神岩が割れたと思う頃には砕けていた。


「なんだあ、こりゃ!」


「怪異! 逃げるよ」


 咲は引き続き大地の服を引っ張る。大地はそれを無視し、見えない何かから咲を守るように、小さな少年の体で身を挺した。


「逃げるったって、咲ババアは走れないだろうに」


 砕けた岩の上に鵺は乗り、こちらを見て不気味にあざ笑っている。


「咲は戦うから、早く!」


 しかし大地は振り向き咲に向け笑ったかと思うと、見えないはずの鵺と対峙した。その姿が、咲には四季の後ろ姿と重なって見えた。


「ここらへんか?」


 そういうと、大地は岩の前にいる鵺を思いっきりぶん殴った。鵺はぶっ飛び、ぶつかった大木を揺らし、一撃で消滅していった。その塵のようなものが、咲の背後に集まっては消えていく。


「お、臭くなくなった」


「す、すごい。四季なの?」


「死期? 変な事いうなよ」


「いや、名前」


「? 大地だよ」


「だよね」


 咲はその場にしゃがみ込んだ。大地は何事もなかったかのように咲の隣に座って腰を支えた。


「私の呪いも倒せる?」


「呪われてんのか?」


「うん。年取る呪いと、周りの命を削る呪い」


「へー。俺も今削られてんのか?」 


「多分平気。この距離で普通咲と話せない。具合悪くなる」


「そりゃ難儀な呪いだな。出来るかわからんが、やってみるか」


「うん」


 大地が拳を振り上げ、咲の背後を殴ろうとした瞬間。


 _待て_


 声が聞こえた。


 _成長か若さ、どちらか返そう。今のでもう充分食べた_


「咲。低い声でしゃべってるか?」


「ううん」


 咲は人生一番驚いた顔をして首を横に振った。その顔が面白くて大地は少し笑った。


「じゃあ呪いが喋ってるのか。初めてだな霊の声が聞こえるの」


 大地も驚いた。彼に見鬼(霊を見る力)はなかったからだ。


「おい呪い。喋れたのか。なんで咲を呪うの」


 _咲が器だからだ。すまないとは思っている。代わりに守って来たつもりだ_


「ならもっと早く話したかったな」


 _先ほどの鵺で会話できるほどに回復した。さあ、どちらか選んでくれ_


「若さ」


「じゃあ俺成長」


 _ちょっと待って。君は関係ないだろう_


 大地は声が聞こえる咲の背後にもう一度拳を振り上げるフリをした。


 _待て、待て待て。わかった。咲と大地が相互に呪いを流し合うパイプに私がなろう。それで私は力の一部をまた集めなおしになるから、沢山怪異や霊を狩ってくれよ_


「いいよ。咲それしか出来ないし」


 _うむ、なんだか申し訳ない。では二人で手を繋げ_


 咲と大地が手をつなぐ。すると、みるみるうちに咲の曲がっていた腰はまっすぐ伸び、髪は白髪だがしなやかにコシを持ちフサフサと生え、顔と体も肌も美しく瑞々しい10歳の少女になっていった。

 大地もみるみると身長が伸びていき、あどけない少年から、逞しく力強い25歳の青年となった。


「おおおおおお」


「おおおおおお」


 二人は喜び飛び跳ねた。結界の外に出ると、すでに空は晴れて太陽が昇りかかっていた。自由の利く体を使い、有り余る力で飛び跳ねながら山を下り、転んでも爆笑し、ついでにいろんな話をした。

 咲はネズミを食べてたこと、四季のこと。

 大地は孤児院を抜けて山にきていたこと、見えないものと戦える力がなぜかあったこと、成長を気づかぬうちに奪われていたこと。ネズミを食べてたのはヤバイから人に言わない方がいいぞってこと。


 山を下りると、お互いの住んでいる場所を伝え、手を振り別れた。

 そして200mほど離れたところで、またすぐにお互い元の体に煙をあげて戻りつつあることに気づき、走って合流した。


「これ、そばに居ないともしかしてもとに戻るのか?」


 大地も咲も全力で走っていたため、息が切れている。


「かも。一緒に住む?」


「そうすっか。よくよく考えたら俺この姿で孤児院戻れないし」


「よし、免許取って」


「なんでだよ」


「咲の家狭い。四季の家、空いてるけどここから車で2時間」


咲はぴょんぴょん跳ねながら自分の家と四季の家を指さしながらいった。方向しか伝わらなかった。


「あー、さっき話してた俺に似てるっていう育ての爺さんの家か。でも俺車買ったり免許取るための金ねえぞ」


「咲、たんまりある」


 少女とは思えないとても悪い顔で言った。


「なんと心強い」


「大地も仕事、一緒にする」


「怪異殺しか。そうだな、とりあえずは咲の家泊めてくれ」


 大地は親指を立てて、片目を閉じて笑っていった。それは四季がよく、咲にお願いをするときにするポーズと同じだった。


「うん!」


 咲はそれがなんだか嬉しくて、嬉しくて、大地の体をよじ登り勝手に肩車をさせた。


「なんだよ」


 文句を言いながら大地は咲が落ちてしまわないように膝を掴まえ支えた。


「くっついてないとだから、ね!」


 少女と青年。切っても切れない関係の、後に世界最強の怪異殺しコンビが結成する瞬間だった。



ご愛読ありがとうございました!

こちら長編での案があり、その前日譚として描いています。

妖怪のお医者さん、貞子VS伽椰子、地獄先生ぬ~べ~、呪術廻戦、ぼぎわんが来る、三角窓の外は夜らへんの世界観を混ぜたものを作る予定です。


アメリカホラーのような悪魔崇拝や宗教物、化物語のようなトークメインの学園物ではありませんので、ご了承ください。


いつ連載するかは未定ですが、よろしければユーザーをフォローしお待ちいただけると幸いです!

読者フォローと星レビューも頂けると連載にむけての励みになりますので、是非よろしくお願いします!


長期連載中 

今世ではもう騙されな……凄いおっぱいと尻だ〜童貞おっさん、ハーレム無双出来るまでタイムリープして王になる〜

https://kakuyomu.jp/works/16817330649446361153


1話完結短編

渋谷転生~F欄大学生だけど、最弱スキル【選択視】で生き残れ~

https://kakuyomu.jp/works/16817330650307038508


不定期連載

限界集落で育った童帝オタク、王都の美女達に毎日口説かれるけどスローライフを送りたい

https://kakuyomu.jp/works/16817330650651062719


それでは、またどこかで。


著 君のためなら生きられる。

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老婆は山で骨砕く 追憶偏 君のためなら生きられる。 @konntesutoouboyou

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