第六話 正気じゃない。

「ど、ど、どうしてですか?」


少し焦った口調で質問する


僕にとって、今一番訊かれたくない内容だからだ。


「はい、詳しくは言えないんですけどー」


彼女は話を続ける。


「先程、何かを変なもの見たり、触れたりしてないですか?」


「いやぁーわからないですね~、はは、」


僕は、話の流れから少し脱線した質問をされ、少し戸惑う。


「例えば、上空で何かを光りながら落下する物体を見たりしませんでしたか」


僕は今、自分が置かれている状況に関係があるのかないのか微妙なラインの質問に心臓がむず痒くなる。


「さ、さぁ」


僕は曖昧な返事を返す。


「そうですかー」


彼女はあっさりと話を切り上げた。


「じゃあ、僕はこれでー」


僕は、影の薄い声で会釈をしながら、ドアを閉めようとする。


そのとき、


「ガシッ!」


彼女は無言の圧力で、閉まるドアを足ではさみ、完全にブロックした。


「まだ話は終わってませんよ~」


「いや、ちょっと急いでるので、」


僕は、なんとか話を切り上げようと必死になっていた。


ギギギギギッ


ドアのきしむ音が玄関に響き渡る。


「やっぱりなにか隠してますね!」


「なんのことですかー!」


ドアを必死で閉じようとするが、足で固定され、グイグイ中へ入り込もうとする。


ほぼゼロ距離になったとき、彼女の顔面が至近距離にあることに気づく。


僕はそこで我に返り、きれいな顔が正面にあることに対し、赤面していた。


「いまだっ!」


僕が脱力した途端に、が一気に入り込もうとする。


「うわっ」


僕は体のバランスを崩し、後ろに倒れ込みそうになった。


ギュッ 


僕は目の前にいる彼女の服を掴み、転倒を防ごうとする。


「ちょ、ちょっとやめなさい!?」


すると、前に重心を置いていた彼女が、一緒に倒れ込んでくる。


「ドタン!!」


石畳の床のひんやりとした質感が背中に伝わる。


...



僕は、彼女を抱きかかえるように、玄関に上向きで倒れ込んでいた。


「いててて」


一瞬気を失っていたようだが、怪我はしていないようだ。


「そういえば、あの女は!」


僕はあたりを見渡そうと、上体を起こそうと体に力を入れる。


「なんか重いな...って!」


そこで僕は、腹部の上にまたかる女性を下から見上げる形で発見した。


気づいたときには腕がまくられ、隠していた素肌が丸見えの状態だった。


「じー」


「あのー」


僕は恐る恐る彼女に尋ねる。


「見つけた。」


「へっ?」


彼女は、何か重要なものを見つけたかのように、僕の左腕を凝視していた。







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